研究成果

高エネルギーイオンによる高温プラズマの自発的な流出入を発見

核融合研究において、磁場で閉じ込められたプラズマの性能は、密度、温度と閉じ込め時間で決まり、温度や密度はプラズマの加熱状態により大きく変わります。高性能な核融合炉を実現するためには、プラズマ中の粒子や熱の閉じ込めを良くし、核融合反応が生じるプラズマの中心の密度と温度を高く保つことが求められます。今回、プラズマを加熱する中性粒子ビーム入射加熱装置※1を利用し、磁場に対し接線入射のビーム電力と垂直入射のビーム電力の比率を変化させると、高温プラズマ中の電子はピークした密度分布(赤)もしくは平坦な密度分布(青)状態になり、プラズマに含まれる不純物イオンを流出・流入状態にできることを発見しました。この高エネルギーイオンの速度分布の非等方性を利用すれば、核融合プラズマ中の粒子の流出入量を制御し、プラズマを最適な燃焼状態に保持できる可能性が示されました。

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(左図)磁場に平行と垂直方向に入射した加熱ビームの速度分布。高エネルギーイオンの非等方性を変化させると、電子密度にピークした分布と平坦化した分布が現れることが明らかになった。電子密度の空間分布をプラズマ半径r/a(r/a = 0 はプラズマの中心、r/a = 1 は閉じ込め領域の境界)としている。(右図)プラズマの電子・不純物密度勾配と非等方性 En /En|| の関係。(En||, En )は速度空間(v||, v )上の各粒子の全エネルギーから求めている。この結果から、等方性を強くすれば粒子の閉じ込めが良くなることが分かった。

LHDでは、プラズマを加熱するための中性粒子ビーム入射加熱装置が5台設置されています。各装置から磁場に対し接線方向に入射する中性粒子ビームNB#1~#3と、垂直方向に入射するNB#4とNB#5があり、高エネルギーイオン※2がプラズマ中で生成され、プラズマを加熱します。これらの高エネルギービームを用いて、接線入射のビーム電力と垂直入射のビーム電力の比率を変化させたところ、イオン温度分布は変わりませんでした。しかし、電子にはピークした密度分布(赤)と平坦な密度分布(青)の状態の存在が明らかになりました。

接線と垂直の高エネルギーイオンの比率を変えることは、速度分布を等方的な分布から非等方な分布に変化させることになります。この高エネルギーイオンの状態を、NB#1~#5の入射ビーム電力から生じる垂直・平行成分の蓄積エネルギーの比 En/En|| として、密度分布形状の依存性を調べました。En/En|| = 0.3 - 0.8 の範囲で非等方性を変化させたところ、En/En|| < 0.4 では中心でピークした電子密度分布になることが明らかになりました。その時、外部から炭素の小さな固まりを入射し、その炭素イオンの動きを観測することで炭素イオンの分布を調べました。すると、従来の実験領域  En/En|| < 0.4 では、中心が窪んだ分布でしたが、今回の実験領域  En/En|| > 0.4 で、ピークした分布となることが分かりました。

これらの結果は、高エネルギーイオンの状態によってプラズマの流出入量が自発的に変化することを意味しています。この要因を明らかにするために、高エネルギーイオンによる効果をシミュレーション計算で評価しました。最初に、プラズマ中心の半径方向の電場を調べたところ、その値は-5 kV/mで、重イオンビームプローブ(HIBP)による計測結果とも矛盾の無いものでした。しかし、この程度の電場では粒子の流出入の量を大きく変えるとは考えられません。次に、乱流による粒子の流出入量について、シミュレーション計算を用いて解析を行いました。その結果、ピークした密度分布と平坦な密度分布の場合のいずれも、乱流が関係する現象である可能性が示唆されました。

本研究は、核融合科学研究所の西浦正樹らの研究グループ、九州大学の井戸毅教授、デンマーク工科大学のMirko Salewski教授の協力によって進められました。

この研究成果は、2023年11月米国物理学会プラズマ分科会(APS-DPP)の招待講演として発表されました。また、米国物理学協会が刊行する学術論文誌「フィジックス・オブ・プラズマズ」に2024年6月5日付けで掲載されました。

論文情報

プレスリリース

2024年6月24日 核融合科学研究所:https://www.nifs.ac.jp/news/collabo/240624.html

補足説明

※1 中性粒子ビーム入射加熱装置:電子とイオンで構成されるプラズマを高温に加熱するための装置。プラズマ中に高エネルギーの電気的に中性な高エネルギー水素ビームを入射し、プラズマと衝突・加熱する。

※2 高エネルギーイオン:プラズマ中の高エネルギーイオンの非接触計測であるミリ波を使った協同トムソン散乱計測により、プラズマ中で様々な速度分布が混合して存在することが実験的に示されています[M. Nishiura et al., Rev. Sci. Instrum. 93, 053501 (2022)]。

関連の研究成果:超高温プラズマの温度を測定する非接触温度計―非等方複数高エネルギーイオンの観測に成功―