研究成果

機械学習を用いたプラズマ崩壊回避実験に成功

大型ヘリカル装置(LHD)でのプラズマ崩壊現象を回避する制御システムを機械学習を用いて構築しました。このシステムを用いて、LHD実験における放射崩壊を回避し、高い密度のプラズマを維持することに成功しました。

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崩壊回避コントローラは大型ヘリカル装置(LHD)からの計測データを直接受け取り、崩壊の発生が近いと判断した場合、プラズマへの燃料供給の停止と追加の加熱を行う。この制御系を実験に適用したところ、放射崩壊を回避し、高い密度のプラズマを維持できた。

核融合発電の実現に向けては、プラズマを高温・高密度にすることが必要です。しかし、プラズマの密度を上昇させていくと突然プラズマが消滅する、放射崩壊という現象が問題になります。そこで、放射崩壊の発生を予知する機械学習モデルを大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ制御システムに組み込み、プラズマへの燃料供給と加熱を制御して崩壊を回避する実験を行いました。

放射崩壊の発生予知モデルは、機械学習の一種であるサポートベクトルマシンを用いて作成されました。プラズマが安定な状態にあるか崩壊に近い状態にあるかを分類できるよう、LHDでのプラズマ実験データを用いてモデルを学習しました。作成した機械学習モデルは、プラズマが安定なときは0、崩壊に近づくにつれて1に近い値を取るような「崩壊発生確率」に拡張されました。より詳しくは、以前の研究成果(T. Yokoyama, PFR, 2021)に記載されています。

崩壊回避制御システムは、コントローラとなる小型のコンピュータを中心に構築されています。コントローラは電子温度・密度・不純物の線放射強度といったLHDプラズマからの計測データを直接受け取り、崩壊発生確率をリアルタイムに計算します。崩壊発生確率が上昇し、プラズマが崩壊に近づいていると判断した場合、プラズマへの燃料供給を中断し、同時にプラズマを更に加熱するように信号を出します。また、崩壊発生確率が下降し、崩壊が回避されたと判断された場合、信号を止めて通常の放電に戻ります。

この崩壊回避制御システムを、実際にLHDの放電実験に適用し、その性能を調べました。実験では、放電の初期に発生しそうになった崩壊を回避することに成功しました。その後も崩壊に近づくたびに細かい制御を加え、1.2×1020m-3という高い密度を維持しました。LHDのようなヘリカルプラズマにおいて機械学習を用いた制御で放射崩壊を回避した最初の実例を示すことができました。

本研究は、科学研究費助成事業・挑戦的研究(開拓)「磁場閉じ込めプラズマにおける存続時間及び突発破壊現象の統計的因果探索」(19H05498)及び特別研究員奨励費「データ駆動型アプローチによる核融合プラズマの突発的崩壊現象の研究」(19J20641)の支援を受け,核融合科学研究所の増崎貴、坂本隆一らの研究グループと東京大学新領域創成科学研究科の山田弘司、横山達也(現・量子科学技術研究開発機構)との協力によって進められました。

この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2022年3月30日付で掲載されました。

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