プラズマの崩壊発生を予知し、崩壊に向かうプラズマの変化を捉える
大型ヘリカル装置(LHD)の実験データを用いて、プラズマが崩壊する現象の発生確率を機械学習の手法を用いて評価しました。また、崩壊の発生確率が上昇する、すなわちプラズマが崩壊に近づいていく時間帯にプラズマがどのように変化しているかを、シミュレーションによって明らかにしました。
核融合発電の実現に向けては、プラズマを高温・高密度にすることが必要です。しかし、プラズマの密度を上昇させていくと突然プラズマが消滅する、放射崩壊という現象が問題になります。本研究ではデータ駆動的な手法を用いて放射崩壊の発生を予知するモデルを構築し、崩壊が発生する確率を計算できるようにしました。さらに、崩壊の発生確率が上昇する時間帯のプラズマをシミュレーションすることで、プラズマが崩壊に向かう際の変化を明らかにしました。
この研究では、機械学習の一種である「サポートベクトルマシン」を大型ヘリカル装置(LHD)の実験データで訓練し、プラズマが安定な状態にあるか崩壊に近い状態にあるかを分類できるようにしました。幅広い条件のデータを集めることで予知器が適用できる範囲を広げるために、「水素プラズマか重水素プラズマか」「閉じ込め磁場が強いか弱いか」の2×2=4種類の条件で実験を行いました。機械学習による分類は、プラズマが安定なときは0、崩壊に近づくにつれて1に近い値を取るような「崩壊発生確率」に拡張され、プラズマがどれくらい崩壊に近づいているかを評価できるようにされました。
分類に使用する計測パラメータの組み合わせは、データ駆動的手法の一つであるスパースモデリング※1を導入して最適化されました。線平均電子密度、プラズマ周辺部の電子温度、炭素・酸素不純物の線放射強度が放射崩壊の発生を特徴づけるパラメータとして抽出され、プラズマ周辺の比較的低温(数十eV)の領域における不純物の挙動が崩壊発生の鍵であることが示唆されました。
周辺領域での不純物の挙動を調べるため、プラズマと中性粒子の輸送を3次元空間で計算する「EMC3-EIRENE」コードを使用してシミュレーションを行いました。「崩壊発生確率」が上昇する時間帯の前後を比べたところ、スパースモデリングで抽出された特徴に対応する、炭素不純物によるプラズマのエネルギーの損失が、特に温度が低い領域で増えていることがわかりました。このように、データ駆動的手法をプラズマ物理の議論に活用する「データ駆動科学」によって、放射崩壊に至るプラズマの変化を捉えることができました。
本研究は、科学研究費助成事業・挑戦的研究(開拓)「磁場閉じ込めプラズマにおける存続時間及び突発破壊現象の統計的因果探索」(19H05498)及び特別研究員奨励費「データ駆動型アプローチによる核融合プラズマの突発的崩壊現象の研究」(19J20641)の支援を受け、核融合科学研究所の増崎貴、坂本隆一らの研究グループと東京大学新領域創成科学研究科の山田弘司、横山達也(現・量子科学技術研究開発機構)との協力によって進められました。
この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2021年2月26日付で掲載されました。
論文情報
用語解説
※1 スパースモデリング:データ駆動科学の枠組みの一つ。多数のパラメータによって記述される高次元データは、潜在的には少数の重要なパラメータによって記述可能である(スパース性がある)と考え、それらを選び出すことによってデータの背後にある法則を見つけ出すことを目指す。