研究成果

磁場振動による高エネルギーイオン輸送の理解が進展

これまで高エネルギービームイオンが起こす磁場振動によって、その振動を起こしたイオンがプラズマの外に逃げていることを明らかにしてきました。今回、高エネルギー中性子を高感度で測定する検出器を新規に開発し、振動の原因ではない高エネルギー粒子もプラズマの外に逃げていることを観測しました。この成果によって、将来の核融合炉で懸念される磁場振動による高エネルギーイオン輸送の理解が進みました。

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核融合科学研究所と富山高等専門学校との共同で新規開発した高エネルギー中性子を高感度で検出する検出器。ヘッド部には、高エネルギー中性子を検出する約500本の光ファイバーが埋め込まれている。

将来の核融合プラズマにおいては、プラズマを加熱する高エネルギーアルファ粒子の圧力によって発生する磁場振動によって、アルファ粒子が逃げてしまうことが懸念されています。大型ヘリカル装置(LHD)では、上記現象を避ける手法を見つけるため、高エネルギーイオンを用いた現象の理解に関する研究が進められています。LHDにおいては、プラズマを加熱する高エネルギービームイオンの圧力によって磁場振動が発生する場合があります。これまで、磁場振動によって、その磁場振動を起こした高エネルギービームイオンの最大約半分がプラズマの外に逃げ、それによって加熱効率が低下していることを明らかにしてきました。

本研究チームは、この磁場振動が、磁場振動の発生原因ではない重水素と重水素との核融合反応によって僅かに生成される高エネルギー粒子の閉じ込めにどのように影響を与えるかについて着目しました。そこで、この高エネルギー粒子と重水素の反応によって生成される僅かな高エネルギー中性子を従来の約50倍の感度で測定する計測器を新たに開発し、磁場振動の影響を調べる実験に臨みました。この高エネルギー粒子の磁場振動による減少量は、磁場振動の大きさの三乗に比例し、最大で30%減少していることが分かりました。この成果によって、将来の核融合プラズマで懸念されている、高エネルギーイオンが原因で発生する磁場振動が高エネルギーイオン閉じ込めに与える影響について、理解が大きく進展しました。

本研究は、核融合科学研究所の小川国大、磯部光孝らの研究グループと、富山高等専門学校の高田教授、京都大学の村上教授、韓国核融合エネルギー研究院のJ. Jo博士との協力によって進められ、第28回国際原子力機関核融合エネルギー会議において口頭発表に選出され、国際原子力機関が刊行する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2021年8月17日付けで掲載されました。

論文情報

 

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