研究成果

短時間加熱によりプラズマの熱と乱流の伝達が高速化

大型ヘリカル装置(LHD)を用いて、プラズマ内の熱と乱流の伝播を調査し、熱が伝わる速度が、その熱が短時間で与えられるほど速くなることが分かりました。また、温度の変化と乱流がほぼ同時に伝わることも観察されました。この現象は、プラズマ内のエネルギーがどのように移動するかを理解する上で非常に重要です。これらの成果は、将来の核融合炉において、プラズマを安定的に制御するための貴重な知見を提供します。

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図1. プラズマ中心を加熱した際に熱が伝わる様子。(左)加熱時間4ミリ秒の場合は時速1000キロメートルで中心から周辺に伝播し、(右)加熱時間16ミリメートルの場合は時速100キロメートルで伝播する。
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図2. 加熱時間と伝播速度の関係。加熱時間が短いほど伝播速度が速くなる。

核融合発電は、将来のクリーンで持続可能なエネルギー源として期待されています。核融合を実現するためには、非常に高温のプラズマを安定して維持・制御する技術が必要です。このため、プラズマ内での熱や乱流の動きを正確に理解し、予測・制御することが求められています。特に、プラズマの密度や温度が熱の伝わり方にどのように影響するかを明らかにすることが重要です。

本研究では、大型ヘリカル装置(LHD)を使って、電子サイクロトロン加熱(ECH)という方法でプラズマの中心に熱を加えました。加える熱の時間を変えて、その熱がプラズマの中をどれくらい速く伝わるかを測定しました。具体的には、ECHの時間を4ミリ秒から20ミリ秒の範囲で変えて実験を行い、プラズマ内の熱と乱流の動きを観察しました。この方法により、プラズマ内の熱と乱流の動きを詳細に観察することができました。

短い時間で熱を加えると、その熱がプラズマ内を非常に速く伝わることがわかりました。例えば、図1に示すように4ミリ秒の短い時間で加えた熱は、従来の理論とは異なる速さの時速1000キロメートル程度で広がりました。これは、プラズマ内での熱の伝わり方が、熱の加え方によって大きく変わることを示しています。

また、熱が伝わるときに、プラズマ内で乱流も一緒に動いていることが観察されました。乱流は、プラズマ内で熱を運ぶ小さな渦巻きのような動きです。熱と乱流が同時に動くことで、プラズマ内の熱の動きをより深く理解できました。更に、熱を加える時間が短いほど、その熱の伝わる速度が速くなることがわかりました(図2参照)。この関係を理解することで、プラズマの安定性を高めるための新しい方法を考えることができます。例えば、短い時間で熱を加えると、プラズマ内で熱が速く広がることが予測できます。

今回の研究成果は、将来の核融合炉でプラズマを安定して運転するために非常に重要です。特に、プラズマが不安定な状態でも制御するための新しい知見が得られました。この知見は、核融合炉の設計や運転に役立ち、突発的な熱や乱流の変動に対応するための有効な方法となります。今後の研究では、さらに詳細な実験を通じて、プラズマ内の熱と乱流の動きをより深く理解していきます。また、得られた知見を基に、より高度なプラズマ制御技術の開発を目指します。

本研究は、核融合科学研究所の釼持尚輝助教、居田克巳教授、徳澤季彦准教授らの研究グループと米国・ウィスコンシン大学のダニエル J デン ハートッグ教授との協力によって進められました。

この研究成果は、国際的なオンライン学術論文誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2024年6月6日付けで掲載されました。

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