プラズマ質量が断熱層形成に及ぼす影響を解明
―先進診断法によりプラズマの内部構造が明らかに―
大型ヘリカル装置(LHD)実験において、断熱層の性能がプラズマ質量によって左右されること見出しました。この現象の物理背景を調べるため、重イオンビームプローブ※1と呼ばれる先進診断法を適用し、プラズマの内部構造を観察しました。これにより、強い断熱層が形成される原因は、プラズマ中の流れの形成によるものであることが確認されました。本研究成果は、核融合発電の実現に必須である、高温プラズマの生成に大きく貢献すると期待されます。
プラズマ実験を行う際のガスとして、軽水素や重水素が用いられます。プラズマの断熱性能は、理論的に質量の大きい重水素で悪く、軽水素で良くなると考えられていました。ところが、実験で確かめてみると、理論予測とは全く逆の性質を示すことがわかりました。この現象は、「水素同位体効果」と呼ばれ、プラズマ核融合研究の長年の謎として研究が進められています。LHDではしばしば、プラズマの内部に「内部輸送障壁」と呼ばれる断熱層が形成されることがあります。これまでの研究によって、内部輸送障壁はプラズマ密度が低い領域で形成されることが知られています。2017年に開始された重水素実験によって、断熱層にプラズマ質量がどのような影響を及ぼすかの研究ができるようになりました。ところが、重水素と軽水素のプラズマでそれぞれどのような条件で断熱層ができるか、また、その際にプラズマ内部にどのような流れが形成されるかを詳細に調べることは、緻密な実験計画とプラズマ計測装置の準備が必要であり、これまで行われていませんでした。
LHDにおける内部輸送障壁の形成条件における水素同位体効果を実験において調べました。プラズマ放電ごとに密度を少しずつ変え、内部輸送障壁が形成される条件を特定しました。プラズマ密度を下げていくと、徐々に断熱層強度が高くなっていきます。重水素プラズマでは、より高いプラズマ密度で断熱層が形成され始めることがわかりました。重水素プラズマで断熱層が形成されやすい理由を調べるため、重イオンビームプローブと呼ばれるプラズマ診断装置を用いて、プラズマ内部の流れを測定しました。これは、高エネルギーの重イオン(金イオン)をプラズマ中に打ち込み、プラズマ中のわずかな電位変化の情報を持って出てきた2次ビームを分析するという計測器です。世界的に見ても重イオンビームプローブを有する実験装置は珍しく、貴重なデータを取得することが可能です。重イオンビームプローブを用いた計測により、重水素を用いて生成したプラズマでは、より強い流れが形成されやすいことがわかりました(図)。このことが、内部輸送障壁形成における水素同位体効果の原因となっていると考えられます。今後は、なぜ重水素プラズマで強い流れが形成されやすいかという点を、理論・シミュレーション研究の助けも借りつつ研究していきたいと思います。
この研究成果は、オープンアクセス総合科学論文誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2022年4月1日付けで掲載されました。
論文情報
用語解説
※1 重イオンビームプローブ:プラズマ外部から金イオンを超高速入射し、プラズマを通過して出てきたビームのエネルギー変化の計測と、電位データを得ることでプラズマの状態を診断する装置。核融合プラズマは1億度近い超高温状態になるため、プラズマの状態診断が一般的に困難であり、内部輸送障壁が形成されるプラズマ中心付近の流れ計測は特に難しく、これまであまり行われてこなかった。磁場閉じ込めプラズマでは、電位の半径方向変化はプラズマ粒子の集団運動を引き起こすので、得られたデータから流れを推定することができる。