研究成果

ミクロスケールの乱流を観測するための新たな計測器を開発

高温プラズマ中に発生する1 mm程度のミクロなスケールの揺らぎを観測するため、電磁波(ミリ波)を用いた散乱計測器を新たに開発しました。ミクロスケールの強い乱流は高温プラズマの閉じ込めに大きな影響を与えると考えられていましたが、これを直接観測することはこれまで困難でした。今回、大型ヘリカル装置(LHD)に適用するために特別な金属レンズなどの機器を開発し、プラズマ中の乱流による信号の検出に成功しました。

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大型ヘリカル装置(LHD)内に設置した金属レンズ付きアンテナ。大小2枚の金属レンズでミリ波ビームを絞って、小スケールの乱流を観測する。レンズは、真空容器内で使える材質である必要からアルミニウムの母材を凹状や凸状に成形し多数のホールを開けることで、屈折率をコントロールして誘電体のレンズのように取り扱うことができる。

高温プラズマ内部に発生する小さなスケール(ミクロスケール)の乱流を精度よく計測するための計測器を開発しました。計測器には、対象とするプラズマを乱すことなく、かつミクロスケールの乱流を計測するための高い空間分解能と時間分解能が同時に求められます。本研究ではミリ波後方散乱計測という手法を適用しました。これはプラズマ中にミリ波と呼ばれる短波長の電磁波を入射して、乱流によって生じた散乱波を受信するという方法です。この時、課題となるのは、散乱信号は微弱なものである上に、プラズマ自身から輻射されるミリ波が存在するということやプラズマを加熱するために外部から入力した強強度のミリ波というものも存在し、これらの本計測器と関係のないミリ波の影響を除く必要がありました。そこで、特殊なフィルタを開発するなど工夫をすることで、プラズマ内部からの乱流による散乱信号を得ることに成功しました。

高温のプラズマ内部では、加熱された電子やイオンの圧力が均一では無いため、圧力を平坦化するような力が働き、この力を基として様々なサイズの乱流が発達することがあります。その中で特にプラズマを閉じ込めるための磁力線に電子が巻き付く1ミリメートル程度のサイズの小さな乱流渦が、将来の核燃焼プラズマ内部では大きな影響を与えることが予測されています。このミクロスケールの乱流の特性を調べることは、将来のプラズマの閉じ込め性能を予測する上でも重要です。しかし、このような小さなスケールの乱流を観測するには、非常に精度の高い計測器が必要であるため、これまで実験観測が困難でした。

本研究チームは、この課題に取り組むため、ミリ波の送信・受信アンテナをプラズマ真空容器内に設置してプラズマの近くで測定することで信号強度を増大させ、かつ、集光することで高い空間分解能を持たせることを試みました。光を絞るには誘電体のレンズを使いますが、プラズマ実験を行う真空容器内では、誘電体レンズは使えません。そこで真空容器内でも利用できる金属レンズを開発しました。また、乱流の情報を含んだ微弱な散乱信号を周辺の環境ノイズと区別して受信できるように工夫を施したミリ波の回路を設計製作することで、LHDプラズマ中のミクロスケールの乱流の観測に初めて成功しました。

将来の核融合装置では計測機本体は実験装置から遠く離れたところに設置して計測することが求められます。今回、計測に用いたミリ波も、LHDから60メートル離れたところから、コルゲート導波管と呼ぶ内部に細かなひだを付けた金属管の中を通して、乱流を観測することに成功しました。これは将来核融合装置でもこの測定方法が利用できることを示した好例となりました。また、本研究でミクロスケールの乱流が観測できるようになったことで、これまでに既に観測できている大きなサイズ(マクロスケール)や中位のサイズ(メゾスケール)等のサイズの異なる乱流間の相互作用研究という新しい研究分野への展開ができるようになり、新しい物理領域の開拓が期待できる成果が得られました。

本研究は、核融合科学研究所の徳沢季彦らの研究グループと九州大学応用力学研究所の稲垣滋、東京大学大学院新領域の江尻晶、福井大学遠赤外研究センターの斉藤輝雄、山本晃司との協力によって進められました。

この研究成果は、米国物理学協会が刊行する学術論文誌「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスツルメンツ」に 2021年4月13日付けで掲載されました。

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