研究成果

超高温プラズマの内部構造診断ための高性能ミリ波フィルタ開発

核融合炉内の超高温プラズマに関する研究では、ミリ波メガワットの電磁波を使い、核融合反応が生じる1億度までプラズマを加熱します。しかし、強力な電磁波は計測器にダメージやノイズを与えてしまい、正しい計測を困難にしていました。そこで、ミリ波電子温度計測器のために、特定周波数だけを取り除くミリ波帯の高性能ノッチフィルタを開発し、電子温度を計測することに成功しました。すべてのミリ波帯を使うプラズマ計測に必要となる基盤技術であり、産業分野や通信分野など、応用分野は多岐にわたります。


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核融合プラズマの電子温度は性能を左右する重要なパラメータである。超高温プラズマ中の電子から放出される電磁波強度を測定することで、電子温度と空間分布を求めることができる。放出されるミリ波帯(40-200 GHz)の電磁波を計測する回路に、プラズマ加熱に使う強力な電磁波がノイズとして混入し、正しく温度を計測できない問題があった(図(a))。本研究で開発した高性能ミリ波帯ノッチフィルタを用いると、ノイズとなる特定の周波数である56GHzを除去し、正しく温度を計測が可能となった(図(b))。

核融合プラズマでは、高温プラズマを生成・維持するために、ミリ波メガワットの強力な電磁波を用います。大型ヘリカル装置(LHD)では、1メガワットのミリ波電磁波(周波数は複数あり、56GHz,77GHz,154GHz)が出力できる5台のジャイロトロンを使い、プラズマ生成と加熱・計測に用いています。一方、高温プラズマから放射されるミリ波帯の電磁波は、電子温度の情報を含んでおり、内部状態を研究する上で重要な計測になります。

プラズマから放射される微弱な電磁波を利用するミリ波電子温度計測器は重要な計測器の一つです。しかし、プラズマ計測において、加熱用のミリ波電磁波を使用すると、計測信号へのノイズ発生により正しく温度を評価できない状況になっていました。このノイズは計測回路の故障を引き起こす原因にもなるため、原因を特定しその対策を行う必要がありました。

本研究チームは、加熱用のミリ波電磁波が計測器にノイズとして混入していることを突き止め、ノイズを除去し、それ以外の周波数は通過させる高性能広帯域ノッチフィルタ(ノッチ減衰量60 dB,56 GHz ±1.3 GHz)の開発に成功しました。このフィルタは、Qバンドの通過帯域である33-50 GHzを低挿入損失とし、Qバンド外の56 GHzを除去することが可能です。これまで、 Qバンド帯域内に除去したいノッチ周波数を持つフィルタは実現していましたが、帯域外にノッチ周波数を持つフィルタは存在しませんでした。今回開発したフィルタの原理は、Qバンド以外の周波数帯域にも適用できることも確認しました。数値モデルで性能を最適化し、製作、性能評価後、ミリ波電子温度計測器に組み込みました。その結果、これまで困難であったプラズマ加熱のためのミリ波電磁波を入射した状況下での電子温度計測を実現しました。

核融合装置では超高温プラズマの状態を明らかにし、燃焼を制御するためには、非接触で高放射線耐性の計測器が求められます。ミリ波計測器の開発とそれを使ったプラズマ解析は、核融合プラズマの燃焼制御につながる重要な研究となります。

本研究は、核融合科学研究所の西浦正樹、清水貴史らの研究グループによって進められ、この研究成果は、米国物理学協会が刊行する学術論文誌「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスツルメンツ」に2021年3月12日付けで掲載されました。

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