研究成果

中性子由来の信号評価により、
人工ダイヤモンドを用いた高エネルギー粒子研究が可能に

大型ヘリカル装置(LHD)では、プラズマ中の高エネルギー粒子の閉じ込めを研究するために、人工ダイヤモンドを用いた中性粒子分析器(NPA)を開発しました。しかし、このNPAには、中性子が発生する環境下では中性子由来のノイズが発生してしまうという問題があります。本研究では、このノイズを評価するために、東北大学と共同で、NPAにおける中性子の影響を明らかにしました。これにより、LHDにおけるNPAの信号から中性子由来のノイズを分離して、高エネルギー粒子の研究ができるようになりました。

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人工ダイヤモンドを用いた中性粒子分析器(NPA)は、大型ヘリカル装置(LHD)真空容器の地下に設置している。LHDの真空容器と約4メートルのステンレス管でつながっており、この管を通り抜けてきた高速の中性粒子を観測する。現状では3つの視線で観測を行っている。

将来の核融合炉では、核融合反応により生成された高エネルギー粒子がプラズマを加熱する役割を担うため、高エネルギー粒子をプラズマ中に良好に閉じ込めることが求められます。この研究を推進するためには、プラズマ中の高エネルギー粒子のエネルギー分布を計測することが必要であり、大型ヘリカル装置(LHD)では、これまでに人工ダイヤモンドを用いた中性粒子分析器(NPA)が開発されました。人工ダイヤモンドのような半導体型のNPAは検出器がコンパクトで多地点計測に向いています。また、従来のシリコン半導体を用いたNPAは中性子が発生する環境下での使用は困難でしたが、ダイヤモンドを用いたNPAはそのような環境下でも計測が可能です。ところが、このNPAには、中性子が検出器を透過した際の信号と高エネルギー粒子が観測された際の信号を区別することが非常に困難だという課題がありました。

本研究では東北大学の高速中性子実験室(FNL)との共同研究により、ダイヤモンド検出器に中性子を照射し、出力信号の中性子束依存性を調べました。FNLにおける実験では、実際に使用するエネルギー帯より高いエネルギー帯の計測も行い、ダイヤモンド検出器の特性を調べました。

この共同研究の成果を基に、LHD実験で使用するためのNPAに対する中性子の影響を見積もりました。実際の実験では、ゲートを閉じることにより高エネルギー粒子を遮断し、ゲートを通過した中性子のみをNPAで計測しました。そして、上記の共同研究の結果を用いて、中性子による信号総量とエネルギー分布を見積もり、他の方法によって得られた中性子の計測結果と比較しました。それらの結果は良く一致しており、NPAにおける中性子由来の信号が評価できたことが確認できました。これにより、人工ダイヤモンドを用いたNPAの信号から中性子由来のノイズを分離して、高エネルギー粒子の研究ができるようになりました。

本研究は、核融合科学研究所の神尾修治らの研究グループと東北大学の松山成男らの研究グループとの協力によって進められ、研究成果は、米国物理学協会が刊行する学術論文誌「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスツルメンツ」に2020年11月12日付けで掲載されました。

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