研究成果

核融合プラズマの新たな乱流遷移を発見

大型ヘリカル装置(LHD)において、レーザーを用いた高精度計測により、特定の条件において乱流が抑制される現象を観測しました。さらに軽水素プラズマと重水素プラズマの比較実験、およびスーパーコンピューターを用いたシミュレーションにより、乱流の抑制は乱流の種類が変化する際に起こることが明らかとなりました。本研究結果は、乱流を抑制するための核融合炉の革新的な運転シナリオの確立や炉設計への応用が期待される成果です。

image
左図に示すように大型ヘリカル装置(LHD)ではプラズマ中の乱流をレーザーを用いて詳細に計測することができる。本研究では一定の加熱パワーで電子密度を変える実験を行った。その結果、右図に示すように特定の密度で乱流が最も抑制されることが明らかになった。また、特定の密度前後では乱流の性質が異なることが確認できた。

フュージョンエネルギーは、軽い原子核同士が融合して重い原子核に変わる反応(核融合反応)の際に放出されるエネルギーです。フュージョンエネルギーを用いた発電(核融合発電)では、重水素と三重水素が融合し、ヘリウムに変わる際に発生するエネルギーを利用します。この反応過程では二酸化炭素は排出されません。また、燃料の原料は海水中からも回収することが原理上可能であるため、持続可能なエネルギー源として、近年急速に実用化に向けた研究が進んでいます。核融合反応を起こすためには、重水素や三重水素を1億度以上のプラズマになるまで加熱し、それを強力な磁場のカゴで保持する必要があります。ところが、プラズマ中に存在する乱流によりプラズマが磁場のカゴから流れ出てしまいます。そのため、乱流は核融合研究において重要なトピックであり、乱流の抑制は核融合発電の実現に不可欠です。

乱流の抑制には、乱流が発生する物理背景を理解することが必須であり、この課題に取り組むうえでLHDは最適な装置です。例えば、通常、乱流の計測は容易ではありませんが、LHDでは、レーザーを用いた高精度計測により、乱流の空間的広がりや進行方向などの物理特性の計測に成功しています。また、本実験はLHDにて重水素を用いた実験が可能であった期間中(2017~2022年)に行われており、乱流のプラズマの質量に対する依存性を調べることができました。

研究グループは、LHDにおける乱流を包括的に理解するために、一定の加熱条件下で軽水素プラズマの密度(電子やイオンの数)を変える実験を行い、同時に乱流を詳細に計測しました。その結果、ある密度(遷移密度)において乱流が最も抑制され、遷移密度以下では、乱流は密度が高くなるにつれて減少しますが(右図の紫色の領域)、遷移密度を超えると乱流は増加に転じる(右図のオレンジ色の領域)ことがわかりました。さらに、遷移密度を境に、乱流の進む向きが反転することも観測されました。これは遷移密度前後で乱流の特性が変化(乱流遷移)することを示唆しています。

次に乱流遷移を裏付けるために、スーパーコンピューターを用いたシミュレーションを行いました。その結果、遷移密度以下で観測された乱流は、主にイオン温度勾配により引き起こされる乱流であり、遷移密度以上の乱流は、主に圧力勾配により引き起こされる乱流であることがわかりました。そして、この乱流の性質の変化が、乱流抑制の重要な物理背景であることがわかりました。このように実験観測とシミュレーションを駆使することで、観測された乱流抑制の背景に乱流の種類の変化、つまり乱流遷移が存在することが明らかになりました。

さらに、同じ実験を重水素プラズマで行い、軽水素プラズマと比較しました。その結果、質量の大きい重水素プラズマの方がより高い密度で乱流遷移が起こる、つまり、高い密度で乱流が抑制されることが分かりました。また、遷移密度以上において観測された乱流は、重水素プラズマにおいて明確に抑制されることがわかりました。重水素プラズマで観測された高い密度での乱流抑制は、核融合発電で想定される更に高い密度かつ質量の大きい重水素と三重水素の混合プラズマにおいて乱流が更に抑制されることを示唆しており、核融合の早期実現にとって好ましい結果です。

本研究は、核融合科学研究所の田中謙治らの研究グループと九州大学応用力学研究所の木下稔基および京都大学大学院エネルギー科学研究科の石澤明宏との協力によって進められました。

この研究成果は、米国物理学会が刊行する学術論文誌「フィジカル・レヴュー・レターズ」に2024年6月7日付けで掲載されました。

論文情報