研究成果

高温プラズマ中で氷が溶けて混じり合う様子を詳細に観測し、効果的なプラズマ冷却法を発見

大型ヘリカル装置(LHD)の実験において、磁場で閉じ込めた高温プラズマにネオンを添加した水素の氷粒を入射することで、高温プラズマを効果的に深部まで冷却できることを実証しました。国際協力で建設が進められている世界最大の核融合実験炉イーター(ITER)ではプラズマが不安定になる兆候を捉えた際、装置のダメージを回避・緩和するために強制的に高温プラズマを冷却する技術の開発が進められています。今回の実験では高温のプラズマ中で氷が溶けて混じり合う様子を初めて水素とネオンが混合された氷に対して詳細に観測することで、ITERの冷却システムの性能を左右する重要な物理的効果を解明しました。

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今回の実験では1秒間に2万回の頻度で温度と密度を計測できるシステムを用い、プラズモイドが観測領域を通過する瞬間の密度を計測することで、純粋な水素の氷を入射する場合と水素の氷に5パーセントのネオンを混合した氷を入射する場合ではプラズモイドの空間分布が大きく異なることを初めて明らかにした。

核融合炉では重水素と三重水素の燃料を1億度以上の高温に加熱することで核融合反応を維持します。このような高温に耐える材料は存在しないため、核融合の実験装置では高温のプラズマが壁に直接触れることのないように「ダイバータ」と呼ばれる特別な磁場の構造を使ってプラズマを宙に浮かせています。初めて核融合反応による持続的な燃焼状態を実現する実験が行われるITERもこの方法を使っています。ITERは現在、サン・ポール・レ・デュランス(フランス)において日本を含めた国際協力で建設中です。

ITERでは人類がこれまで扱ってきた中でも最大規模の核融合実験に挑戦します。そこではプラズマを閉じ込める磁場構造が不安定性によって壊れてしまう「ディスラプション」という事象に十分な対策が必要です。ディスラプションが起こるとダイバータ構造による断熱がうまくいかず、プラズマのエネルギーが数ミリ秒という短い時間の間に一挙に壁に流れ込んでしまいます。ディスラプションへの対策を行わないと機器の修復が必要となって実験が停止したり、ITERの装置自身の寿命を縮めることにもつながってしまいます。

そのようなリスクに備えるため、ITERでは放電の緊急停止システムの開発が重要な課題として20年以上にわたる研究が続けられてきました。最近の大きな動きとして、ITERは緊急停止システムにペレット粉砕入射と呼ばれる技術を採用することを決定しました。この技術に基づく緊急停止システムはプラズマの不安定性を検知すると空気銃の要領で秒速500メートル程度まで加速した氷の塊を高温のプラズマに入射して、高温プラズマを冷却します。

このシステムの信頼性の確保はITERの重要な課題で、入射した氷でプラズマが冷やされる過程をできるだけ詳しく知るとともにどのような元素をどの程度の量、プラズマに入射すべきか、設計を行う必要があります。今回、大型ヘリカル装置(LHD)では、水素の氷に5パーセント程度のネオンを混合した特別な氷を入射する実験を行いました。同様の実験は欧米でも行われた例がありますが今回行った実験の特徴は、高温プラズマ中に入射された氷が溶けたのちの挙動をレーザーを使って詳細に観測した点にあります。実験において、水素の氷に5パーセント程度のネオンを添加することにより、純粋な水素の氷を入射する場合に比べ、効果的にプラズマの深部まで冷却が可能となることを明らかにしました。 高温プラズマ中に入射された氷は、高温プラズマによる加熱で表面から溶けて蒸発し、氷の周囲に温度が低く、密度が高いプラズマのかたまり(以下、「プラズモイド」と呼びます。)を作ります。この低温高密度のプラズモイドが背景の高温プラズマと混じり合うことでプラズマの温度を低下させることが可能ですが、氷が純粋な水素で生成されている場合、プラズモイドがプラズマと混じり合う前に排出されてしまうことがわかっていました。今回の実験では、水素の氷に微量(5パーセント程度)のネオンを混ぜることで排出現象を抑制できることが世界で初めて実験で観測されました。この観測には核融合科学研究所が最近開発した1秒間に2万回(20キロヘルツ)の頻度でプラズマの温度と密度を計測できる世界最高性能のシステムが役立ちました。

今回の研究成果によって、僅かなネオンを添加した水素の氷を高温プラズマに入射することで、効果的にプラズマの深部まで冷却できることが初めて示されました。このネオン添加による影響は実験で得られた新しい現象として興味深いだけでなく、ITERの運転に必要不可欠な強制冷却システムの性能を左右する重要な効果です。ITERの強制冷却システムは2023年に設計完了を予定しており、本成果はシステムの性能向上に役立つとともに、将来の核融合炉における高温プラズマの制御法の確立にも貢献するものです。

本研究は、量子科学技術研究開発機構量子エネルギー部門六ヶ所研究所の松山顕之主幹研究員と、核融合科学研究所の坂本隆一教授らの研究グループとの協力によって進められました。

この研究成果は、米国物理学会が刊行する学術論文誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に2022年12月15日付けで掲載されました。

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