研究成果

プラズマのかごを揺らすと熱負荷低減

  核融合発電の実現には、高温のプラズマを磁場で閉じ込めて維持することが必要です。そのためには、プラズマの温度低下をもたらす乱流と、装置内壁にかかる大きな熱負荷を制御しなければなりません。今回の研究では、プラズマを閉じ込めている磁場に揺らぎを発生させると、プラズマ中の乱流が伝播するとともに、装置内壁の熱負荷が大幅に減ることを発見しました。これは、乱流と熱負荷の制御に新たな可能性を示すものであり、今後、本成果をもとに、新制御法の確立に向けた研究が進展すると期待されます。

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左:プラズマ中で発生した乱流が同じ場所に留まっている。受熱板に局所的に大きな熱負荷がかかっている。
右:磁場の揺らぎが起こり、乱流がプラズマ中を伝播している。受熱板への熱の流れが広い領域に拡散して熱負荷の最大値が減少する。

  核融合発電を実現するためには、磁場のかごでプラズマを閉じ込め、そのプラズマの中心温度を1億度以上に保つことが必要です。その一方で、装置内壁の熱負荷を減らすために、壁に近いプラズマの温度はできるだけ低くすることが求められます。このプラズマの温度勾配は1センチメートルで数百万度という極めて大きなものです。このような大きな勾配があると、渦を伴った流れである乱流がプラズマ中により発生しやすくなります(図1)。そして、乱流によってプラズマがかき混ぜられることで、閉じ込めていた熱が外へと逃げやすくなり、プラズマの中心温度が下がってしまいます。そのため、熱負荷と乱流をいかにして制御するかが、核融合発電実現の鍵を握っているのです。
  乱流を制御するためには、プラズマ中で発生した乱流がどのように伝播していくかを明らかにすることが必要です。しかし、この乱流の伝播は未だほとんど理解されていません。
  また、装置内壁の熱負荷を減らすために、壁近くのプラズマに不純物を入れて冷やす方法が研究されていますが、この方法は中心部のプラズマも冷えてしまうことがあるなど、多くの課題があります。乱流の伝播を理解するとともに、乱流と熱負荷の制御を可能にする新たな方法が期待されています。

  本研究チームは、磁場で高温のプラズマを閉じ込める実験を行っている研究所の大型ヘリカル装置(LHD)において、磁場に揺らぎを発生させると、プラズマ中の乱流が伝播して、装置壁の熱負荷が大幅に減ることを発見しました。これにより、乱流と熱負荷の制御に新たな可能性を示しました。
  研究グループは、LHDの磁場構造(磁場のかご)を工夫して、プラズマの温度・密度の勾配が大きい所と小さい所を同時に作って実験を行いました。その結果、勾配の最も大きい所で乱流が発生し、それが伝播することなく同じ所に留まっていることを観測しました(図2左)。この時、プラズマから流れ出てくる熱は狭い領域に集中し、この熱を受け止めるダイバータ板(受熱板)には、局所的に非常に大きな負荷がかかっていました。
  そこで、乱流が留まっている場所に磁場の揺らぎを発生させる実験を行いました。乱流がどのような影響を受けるのか、その様子を観測したところ、乱流がプラズマの外に向かって伝播していくことを発見しました(図2右)。そしてプラズマから受熱板へと向かう熱の流れが、この乱流に乗って広い領域に散らばっていることも分かりました。この結果、受熱板の熱負荷も広く分散し、その熱負荷の最大値は、磁場の揺らぎが存在しない場合に比べて、4分の1程度に減っていました。また、この時、プラズマの中心は高温・高密度状態を維持していることが確認できました。このように、磁場のかごを揺らすことで、プラズマの中心温度・密度を高く保ったまま、乱流を伝播させて熱負荷を減らせることを発見したのです。
  今回の研究成果によって、プラズマ中に発生する乱流と装置内壁の熱負荷の制御に、これまで知られていなかった全く新しい方法があることを示すことができました。そして、熱負荷低減という困難な課題が解決できる可能性が見えてきました。
  将来の核融合発電装置では、現在の装置よりも更に高温・高密度のプラズマを閉じ込めなければなりません。乱流の発生がより顕著になるとともに、核融合反応が促進されると装置内壁の熱負荷がより大きくなると予想されます。今後は、そのような乱流と熱負荷の制御方法の確立を目指し、本研究成果を発展させていきます。

  本研究は、核融合科学研究所の小林政弘、田中謙治、居田克巳らの研究グループと九州大学の木下稔基との協力によって進められました。

  この研究成果は、米国物理学会が刊行する学術論文誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に2022年3月23日付けで掲載されました。

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