研究成果

プラズマ中の「食べる食べられる」の関係
―生態学発の数理モデルで磁気島の脈動機構を解明―

大型ヘリカル装置(LHD)で生成されるプラズマ中に「磁気島※1」と呼ばれる構造が形成されると、装置内壁の熱負荷が減ることが 知られています。今回、磁気島が自発的に拡大・縮小を繰り返す脈動現象を新たに発見しました。そして、この脈動の機構を、生態学発の 「捕食者・被食者モデル」を用いて解明しました。本研究成果は、核融合発電の実現に必須である、装置内壁の熱負荷低減に大きく貢献する と期待されます。

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捕食者・被食者モデルで得られる競合関係。(上)オオカミとウサギの競合関係を表す時系列。ウサギが増加すると、その後、捕食者であるオオカミが増加する。ウサギが減ると、 オオカミも減少する。(下)プラズマ中の磁気島と磁気島の端を流れる電流の競合関係。電流が増加すると、磁気島が拡大して壁の熱負荷が低減する。すると、電気抵抗が増加して電流が減少する。 電流の減少は、磁気島の縮小を引き起こす。磁気島が縮小すると、壁の熱負荷が増加すると同時に電気抵抗も減少し、電流が増加する。

磁場で閉じ込められた核融合プラズマ中には、「磁気島(じきしま)」と呼ばれる構造が形成されることがあります。LHDでは、磁気島とプラズマの関係を調べるため、磁気島を意図的に作って、 プラズマの反応を調べる実験を行っています。その成果の一つとして、磁気島を利用することで、プラズマの中心温度を高く保ったまま、装置の内壁への熱負荷を減らせることを明らかに しました。核融合発電の実現には、このような状態を安定して維持することが必要であり、磁気島とプラズマの関係を更に詳しく理解することが求められています。

LHDにおける磁気島の性質を調べる実験において、磁気島が拡大と縮小を繰り返す脈動現象が発見されました。この脈動は、外部から周期的な力を与えることなく自発的に 発生する「自励振動※2」です。この振動に伴って、装置壁の熱負荷が高い状態と低い状態を行き来すること、また、磁気島の端を流れる電流も増減を繰り返していることが明らかに なりました。そして、このような振動は、草食動物と肉食動物の個体数の増減といった自然界で見られる自励振動と似ていることに着目して、詳細な機構の解明に取り組みました。 自然界では、草食動物が増えると、それを餌とする肉食動物が増え、肉食動物が増えすぎると草食動物が減るという個体数の変動が起こります。このような二つの競合関係によって 生じる変動は、「ロトカ・ボルテラ方程式」(捕食者・被食者モデルとも呼ばれる)を用いて説明できることが知られています。今回発見した自励振動の発生源は、 磁気島の大きさと磁気島の端を流れる電流の競合関係にあると仮定し、ロトカ・ボルテラ方程式を計算してシミュレーションを行いました(図)。その結果、実験結果を 再現することに成功し、これにより自励振動の発生機構を解明することができました。

この研究成果は、米国物理学会が刊行する学術論文誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に2022年2月27日付けで掲載されました。

論文情報

用語解説

※1 磁気島:核融合プラズマの閉じ込め磁場は、通常入れ子状になったドーナツ形状をしている。ここに、意図的に外部から微小な磁場を加えることで、部分的に独立した磁場構造を作ることができる。この部分的な磁場構造を、プラズマ断面において観察すると水面に浮かぶ島のように見えることから、「磁気島」と呼ぶ。

※2 自励振動:振動現象は、通常、その振動と同じ周期を持つ力により駆動される。例えば、ブランコを漕ぐ際には、加速するタイミングに合わせて足を踏み込むことで、より大きな振れ幅にすることができる。それに対し、自励振動とは、時間変化しない一定の力により駆動される振動のこと。物体や組織など、そのシステムの持つ固有の振動数で発振する。バイオリンの絃の振動、心筋細胞の脈動、草食動物と肉食動物の個体数の増減など、自然界に普遍的に見られる振動現象。