研究成果

閉じ込め装置の性能向上のための比較実験

核融合反応でエネルギー生成を目指した磁場閉じ込めプラズマ装置にはいくつかの方式があります。世界の主流の方式はプラズマ電流と外部コイルで閉じ込め磁場を形成するトカマク方式です。外部コイルのみで閉じ込め磁場を形成するヘリカル装置はトカマク装置に比べてコイル形状が複雑になりますが、定常運転に優れ、将来の核融合炉として有望と考えられています。ヘリカル装置の代表的な装置は核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)とマックスプランクプラズマ物理研究所(ドイツ グライスバルト)のベンデルシュタイン7-X(W7-X)装置です。両装置とも同程度の大きさでともに超電導コイルを用いていますが、コイル形状は大きく異なります。そこで、LHDとW7-Xの閉じ込め性能の比較実験を行い、将来のヘリカル装置のコイルの設計に重要な知識を獲得しました。

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図1:衝突拡散(左)と乱流拡散(右)のイメージ。衝突拡散は、粒子の衝突によって運動が変化することで起こる。乱流拡散は、粒子が乱流(渦のような乱れた流れ)の影響を受けて、別の場所へと移動することで起こる。

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図2:LHDとW7-Xは、両者とも捻じれたドーナツの形をしたプラズマを磁場で閉じ込めているが、磁場を形成するコイル(青色)の形状が大きく異なる。プラズマの体積はいずれも30 m3(立方メートル)です。LHDは乱流拡散が小さく、W7-Xは衝突拡散が小さいのが特徴である。(W7-Xの画像はマックスプランクプラズマ物理学研究所提供)

図3:LHDとW7-Xの拡散係数の分布の比較。衝突拡散はW7-Xの方が小さく、乱流拡散はLHDの方が小さいことが実験により明らかになった。

磁場でプラズマを閉じ込めるとプラズマのエネルギーと粒子は拡散現象によりプラズマの内部から外部へ逃げていきます。この拡散をどのようにして抑えるかが核融合研究で重要な課題になっています。拡散現象には図1に示すような二つの異なる拡散過程があります。一つは衝突拡散というプラズマの粒子(電子およびイオン)の衝突により起こる拡散です。もう一つはプラズマ中の乱流が引き起こす拡散です。衝突拡散については理論的な理解がかなり進んでおり、コイル形状を最適化することにより衝突拡散を抑えることができます。1998年に運転を開始したLHDでは衝突拡散をある程度抑えることができましたが、2015年に実験を開始したW7-Xはコイル形状の最適化により衝突拡散をLHDに比べて大幅に低減することができました。

一方、乱流拡散についてはまだ未解明のことが多く、詳細な物理機構が分かっていません。乱流は大小様々な大きさの渦を伴った流れで、磁場で閉じ込めた高温のプラズマ中には様々な理由で乱流が発生します。そして、その乱流によってプラズマがかき乱されることでも拡散が起こります。この乱流拡散について、実験ならびにスーパーコンピューターを用いたシミュレーションによる研究が世界中で進められています。乱流拡散を抑える閉じ込め磁場を設計することが次世代のヘリカル核融合炉で必要です。

そこで、コイル形状が大きく異なるLHDとW7-Xで条件そろえた比較実験を行い、衝突拡散と乱流拡散の比較を行いました。磁場強度と加熱パワー、プラズマの体積をほぼそろえ、密度、温度が比較的近い値を持つプラズマを生成しました。解析により衝突による拡散係数と乱流による拡散係数を評価したところ、図3に示すように衝突拡散はW7-Xの方が明確に低いものの、乱流拡散はLHDの方が明確に低いことが分かりました。また、乱流による拡散係数はスーパーコンピューターで計算したシミュレーションの予測値とLHD,W7-Xともにほぼ一致しました。

衝突拡散を抑えるコイル設計の方針はW7-Xの建設である程度分かりました。一方、乱流拡散を抑えるコイル設計の方針はまだわかっていません。しかし、今回の実験で乱流拡散を抑えるコイル設計のヒントが、意外にも、衝突拡散の高いLHDのコイル設計にあることが分かったのです。次世代の装置ではLHDとW7-Xの良い面を併せ持つ閉じ込めコイルを設計することにより、衝突拡散も乱流拡散も抑えることができ、閉じ込め性能を大幅に改善することが期待されます。

本研究は核融合科学研究所の田中謙治教授、沼波政倫准教授、仲田資季准教授、マックスプランクプラズマ物理研究所のフェリックス・ワーマー博士、パブロス・サントポウロス博士との共同で行いました。

本研究の成果は、米国物理学会が刊行する学術論文誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に2021年11月24日付けで掲載されました。

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