研究成果

機械学習を用いたプラズマ分布解析手法を開発
ー核融合炉へ向けたプラズマ内部モニタリング手法に道筋ー

ガウス過程回帰を用いてレーザー干渉計などの積分計測からプラズマの密度分布およびその空間変化率を推定する手法を考案しました。レーザー干渉計は計測精度や時間分解能に優れているため、本手法はプラズマの密度分布の実時間モニタリングやそれを用いたフィードバック制御に応用されることが期待されます。

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計測器の空間分解能の効果を考慮したガウス過程回帰。この手法により、レーザー干渉計などの積分計測に対してもガウス過程回帰を適応することができる。従来のガウス過程回帰に利用された局所計測も、位置分解能を正確に評価し、密度分布の推定が可能となる。

核融合プラズマには端から中心にかけて温度や密度の大きな勾配が存在します。これらの勾配が特定の閾値を超えると、不安定性の励起により、プラズマ性能を劣化、また場合によってはプラズマそのものを崩壊させることがあります。よって核融合炉を成立させるためにはプラズマ中の温度や密度をその勾配を含め正確にモニタリングしフィードバック制御する必要があります。将来、核融合炉が実現すると、放射線環境下で長時間運転することが求められます。このような環境下では、現在実験炉で広く用いられているレーザーの散乱を利用した局所計測を使ってプラズマの温度や密度を定常的にモニタリングすることは難しいと考えられています。一方、レーザー干渉計などの積分計測は将来の商業用核融合炉において利用できる可能性があります。

ガウス過程回帰を用いたプラズマの温度や密度の空間分布計測は近年世界中の装置で広く行われています。しかしこれまで用いられてきた従来型のガウス過程回帰は局所計測を対象にしており、レーザー干渉計などの積分計測に適用することはできませんでした。論文では計測器の空間分解能の効果を考慮した、より一般的なガウス過程回帰を提案しました。この手法を用いることでレーザー干渉計などの積分計測に対してもガウス過程回帰を適応することができます。また従来のガウス過程回帰に利用されてきた局所計測に関しても、これまで無視されてきた有限の位置分解能を正確に評価して密度の分布を推定することが可能になりました。

本研究は九州大学の西澤敬之、徳田悟と核融合研究所の小林達哉、田中謙治、舟場久芳、山田一博らの研究グループの協力により進められました。

この研究成果は、プラズマ物理学に関する国際的な学術論文誌「プラズマ・フィジックス・アンド・コントロールド・フュージョン」に2023年11月6日付けで掲載されました。

論文情報

用語解説

※ガウス過程回帰:機械学習の一種であり、計測データからパラメータの空間や時間分布を確率密度関数として推定することができる。従来の特定の関数を用いたフィッティグと異なり、ガウス過程回帰は特定の関数を仮定しないため、パラメータ分布の表現の自由度が高い上、分布の微分量まで推定できるという利点がある。