プラズマ診断技術であるペレット入射に関する理解が進展
高温プラズマに入射された炭化水素ペレットの周りには、高温プラズマとの相互作用により、中性ガス、イオンの層が形成されます。今回、ペレット周囲から発せられる光が観測される領域を決めるスケーリング則の導出に成功しました。本成果により、炭化水素ペレットの周囲に存在する比較的低温の電子の密度と温度の空間分布を高精度で予測できるようになり、炭化水素ペレットを用いた高温プラズマ研究の進展が期待されます。
ペレットと呼ばれる小粒の固体の物質を高温プラズマに入射する技術は、将来の核融合炉において、燃料供給やプラズマの性能維持に欠かせない技術となっています。
また、現在の核融合プラズマ実験装置においても、高温プラズマ中に混入の恐れがある不純物の振る舞いや高温プラズマ中に存在する高エネルギー粒子の径方向分布を調べるために用いられるなど、プラズマ診断にも欠かせない技術となっています。
ペレットを用いたプラズマ診断技術の中でも、将来のDT核融合炉におけるα粒子加熱の予測精度向上の観点から、高エネルギー粒子の径方向分布計測は特に重要です。高温プラズマに入射されたペレットは、高温プラズマとの相互作用により、ペレットの周りに、ペレットを構成する物質の中性ガス及び低温プラズマの層(これをペレット溶発雲と呼びます)が形成されます。このペレット溶発雲に侵入した高温プラズマ中の高エネルギー粒子が起こす相互作用により、高温プラズマ中の高エネルギー粒子の径方向分布を推定することができます。その推定の精度を上げるためには、ペレット溶発雲の大きさとその中に存在する比較的低温の電子の密度と温度を正確に把握する必要があります。大型ヘリカル装置(LHD)では、炭化水素(ポリスチレン)ペレットを用いて、高エネルギー粒子の径方向分布計測を行っています。本研究グループでは、本計測の精度を上げるために、ポリスチレンペレットの溶発雲から発せられる様々な波長の光の2次元分布のスナップショットを同時に撮影する計測装置を開発し、一連のポリスチレンペレット入射実験に適用しました。
その結果、まずペレット溶発雲の磁力線に対して縦方向の大きさと横方向の大きさの間には線形の関係があることが分かりました。また、入射されたポリスチレンペレットの大きさ、ポリスチレンペレット溶発雲周囲の高温のプラズマの密度と温度からポリスチレンペレットの溶発雲の大きさを決めるスケーリング則を求めることができました。さらに、本研究の過程で、固体水素ペレットとポリスチレンペレットそれぞれの溶発雲の大きさの違いについて、理解が進みました。固体水素ペレットの溶発雲中の電子温度は、1.0 〜 1.5 eVと、ポリスチレンペレットの溶発雲中の電子温度、2~5 eVと比較して、低く、この電子温度の違いが溶発雲の大きさの違いに寄与していることが分かりました。今回の成果により、ポリスチレンペレットを用いた高温プラズマ研究、特に高エネルギー粒子の径方向分布の研究が大きく進展することが期待されます。
本研究は、ロシア・サンクトペテルブルク工科大学のイゴール・シャロフ博士、ウラジミール・セルゲイエフ博士らの研究グループとヘリカル研究部の田村直樹との国際協力によって進められ、 この研究成果は、プラズマ物理学に関する国際的な学術論文誌「プラズマ・フィジックス・アンド・コントロールド・フュージョン」に2021年4月14日付けで掲載されました。