データ解析手法の工夫で解像度大幅アップ
大型ヘリカル装置(LHD)で取得されたプラズマ表面の渦データに対して「最大エントロピー法」を適用し、渦の成分分析の解像度を大幅にアップさせることに成功しました。プラズマを安定に制御するためには、発生する渦の運動原理を理解することが必要です。その第一歩として、発生する渦の細かさや回転の速さを正確に知ることが求められます。新しい解析手法を用いることで、渦の成分を詳細に分解できるようになりました。
核融合炉の中でプラズマを安定に制御するためには、その運動原理を知ることが必要です。プラズマ中では中心部と周辺部に大きな温度差が発生します。この温度差をプラズマ自体が打ち消そうとして、様々な大きさの渦が発生することがあります。これはちょうど、熱いお味噌汁をお椀に注いで置いておくと、表面で温度が下がることで底との温度差が生まれ、「ベナール対流」と呼ばれるお味噌の濃淡模様が自然と生まれるのに似ています。プラズマ中に渦ができる原理を明らかにするためには、まずその渦を詳細に観察することが必要です。本研究チームは、最近新たに開発した「ビーム放射分光計測」と呼ばれる装置でプラズマに発生する大小様々な渦を測定しました。
1回の計測で得られるデータは、空間64点、時間100万点の膨大なものになります。データには複雑に折り重なるプラズマの渦の情報が含まれており、また計測によるランダムノイズも入り込んでしまっています。このため、得られたデータをそのまま眺めるだけでは、プラズマの運動を正しく理解することができません。この問題を解決するため、データに統計処理を施し、渦の細かさ(波数)、渦の回転する速さ(周波数)、およびその強さ(振幅)に分解してデータを理解します。従来はこの解析に、「フーリエ分解」と呼ばれる手法を適用していました。ところが、フーリエ分解だと、分解の解像度が低いという問題点がありました。
研究グループは、新たに「最大エントロピー法」と呼ばれる解析手法を渦の分解に適用し、その解像度を大幅にアップさせることに成功しました。この手法を用いることは、計測範囲外のデータを線形予測理論と呼ばれる理論に基づいて外挿し、有効データを実質的に増やすことに対応しています。従来法ではひと塊りに見えていた渦の周波数成分が、新手法を用いることで細かく分解されるようになりました。細かく分解された山のピークはそれぞれ別々の性質を持つプラズマ渦に対応します。今後は、独立に振る舞うことがわかったこれらのプラズマ渦をどのように制御していくかの研究に繋げていきたいと思います。
本研究は、核融合科学研究所の小林達哉らの研究グループとドイツ・マックスプランク・プラズマ研究所の西澤敬之、九州大学応用力学研究所の佐々木真との協力によって進められ、この研究成果は、プラズマ物理学に関する国際的な学術論文誌「プラズマ・フィジックス・アンド・コントロールド・フュージョン」に2021年2月19日付けで掲載されました。