研究成果

軽い水素と重い水素でプラズマの閉じ込めが違う

大型ヘリカル装置(LHD)の実験において、原子核に中性子を持たない軽い水素(軽水素)のプラズマより、原子核に中性子を持つ重い水素(重水素)のプラズマの方がプラズマの乱流が抑えられて閉じ込めがよくなることが分かりました。将来の核融合では重水素と原子核に中性子を二つ持つさらに重い三重水素で行われるため、さらに閉じ込め性能が改善することが待されます。

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水素原子から電子が離れて水素イオンになる。電子とイオンは磁力線に巻き付いて周回する。原子核に中性子を持たない軽水素イオンよりも、原子核に中性子を持つ重水素イオンの方が大きな半径で周回する。

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(a)にLHDの概観を示す。青入りで示すヘリカルコイルでねじれた磁場を作り朱色で示すようなプラズマを閉じ込める。(b)にプラズマの断面図を示す。プラズマは磁力線方向には均質だが、プラズマの断面は黒線に示すような乱流渦が存在する。(c-1)~(e-1)に軽水素プラズマの、(c-2)~(e-2)に重水素プラズマの電子温度 (Te)、イオン温度 (Ti)、プラズマ断面積の長さで平均した密度 (ne bar)を、プラズマ断面積の長さで平均した乱流の振幅(Turbulence Amplitude)の時間変化を示す。(e-1), (e-2)は1 ms (1秒の1/1000)間での乱流信号の変化を示している。

将来の核融合炉における重水素と三重水素のプラズマの閉じ込め性能を予測するために、軽水素と重水素のプラズマで閉じ込め性能を比較しました。プラズマの加熱は電子レンジの原理と同じ電子サイクロトロン共鳴加熱を用いました。軽水素プラズマと重水素プラズマでプラズマの電子密度を揃えて同じ加熱パワー(2 MW)で加熱しましたが、出来上がったプラズマは大きく異なりました。(c-1), (c-2)に示すように電子温度は重水素の方が10 %程度高く、イオン温度は同程度でした。プラズマの閉じ込めにおいて(b)に示すようなプラズマの乱流が閉じ込め劣化の原因になっていると考えられています。乱流渦の大きさはイオンの旋回半径程度だと考えられています。重水素の方が旋回半径も大きく乱流の振幅が大きいことが予想され、当初は重水素の方が閉じ込め性能が悪いと考えられていました。

そこで、研究グループでは炭酸ガスレーザーを用いた二次元レーザー位相コントラストイメージング(Two-dimensional phase contrast imaging:2D-PCI)という計測手法を開発し乱流揺動を計測しました。(d-1),(d-2)に示すように電子密度は軽水素プラズマと重水素プラズマでほぼ同じですが、2D-PCIで計測した乱流信号を時間軸を拡大してみてみると(e-1),(e-2)に示すように軽水素プラズマより重水素プラズマの方が明確に乱流揺動が小さくなっていることが分かりました。乱流揺動が減少したことが、同じ電子密度で重水素プラズマの方が軽水素プラズマより電子温度が高くイオン温度も変わらない(下がっていない)ことの原因だと考えられます。閉じ込めの改善度は10 %程度ですが、10 %の閉じ込め改善は将来の核融合炉を建設するうえで建設費を大きく節約できます。また、軽水素より重水素の方が閉じ込めがよいということは、より重いイオンのプラズマで閉じ込めがよくなることを示唆しており、将来の核融合炉における重水素、三重水素混合プラズマではさらに閉じ込めが改善することが期待されます。

ただし、密度が低い領域ではこのような重水素プラズマでの閉じ込め改善は観測されておらず、重いイオンで閉じ込めが改善するという性質は高い密度での運転を選択する必要があるかもしれません。また、どうして重水素プラズマで乱流が減少するかについては、いくつかの理論的なモデルがありますが、現在のところ、観測結果をまだ十分に説明できていません。理論モデルとの比較に基づく物理機構の解明は今後さらなる研究が必要です。

本研究は核融合科学研究所の田中謙治教授らのグループと量子科学技術研究開発機構の大谷芳明博士、ドイツマックスプランクプラズマ物理研究所のフェリックス・ワーマー博士、フィンランドVTT研究所のトーマス・タラ博士、米国ジェネラルアトミックス社の秋山毅志博士、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のクライブ・マイケル博士、ロシア連邦ブドカー核物理研究所のレオニド・ブヤチェスラボフ博士と共同で行いました。

この研究成果は、プラズマ物理学に関する国際的な学術論文誌「プラズマ・フィジックス・アンド・コントロールド・フュージョン」に2019年12月16日に掲載されました。

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