プラズマの物理量間の依存関係を定量的に推定するIEDSコードを開発
大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ放電実験データにおいて、プラズマ中の物理量間の依存関係を定量的に推定する因果探索プログラムIEDSを開発しました。本研究で開発した手法により先行研究の結果を追認し、核融合プラズマ分野においても因果探索手法が適用できることを示しました。この手法を用いることで、核融合発電で用いられるプラズマのモデリングや物理現象の解析研究を大きく進展させることが期待されます。

核融合発電の実現には、プラズマの立ち上げからその維持に至るまでの制御手法や予測手法の開発が重要となります。現在に至るまで、現象を記述する数式に基づき様々なプラズマシミュレーションコードが開発され、制御や予測のために活用されてきました。しかしながら核融合プラズマ中の物理現象には未だ多くの解明されていない現象が存在し、乱流現象など、支配方程式を推定することが難しい現象も存在します。そこで本研究チームでは物理量間の関係性を表す数式を直接推定するのではなく、依存関係を定量的に推定することを考えました。
プラズマの物理量間の依存関係を調べるため、先行研究で開発された多変量非線形因果探索コードAbPNLに基づき、プラズマの解析のために機能を拡張した因果探索コードIEDSの開発を行いました。プラズマ中の物理量間の関係は線形関係だけでなく強い非線形性を持つものも含まれるため、非線形因果探索手法を採用しました。採用した因果探索手法はプラズマの物理量間に特定の関数で記述される依存関係があると仮定し、ニューラルネットワークを用いて回帰を行います。この際、通常の回帰手法では無視される回帰誤差に含まれる情報を利用して図で示したような変数間の依存関係を推定します。
IEDSを用いて、プラズマの放電データの依存関係を推定した結果、先行研究でLHDプラズマの放射崩壊に寄与するとされていた4つの変数、炉周辺温度Te、線平均電子密度nel、酸素不純物発光強度OV、炭素不純物発光強度CIVの全てがプラズマの安定性指標xに影響を与えることを追認できました。つまり、本因果探索手法を用いてもプラズマの安定性に影響を与える変数を調査できる可能性を示しました。さらに、推定されたOVとCIVの依存関係は、OVからCIVに影響を与えるという方向になっており、この結果はプラズマの不純物による放射冷却率の理論と時系列解析による結果と合致しました。またプラズマの輸送理論等によれば存在するであろうと考えられるTe、nel間の依存関係も、ほぼ見落とさずに推定できました。
核融合プラズマの物理現象のなかで、特に数式によるモデリングが難しい現象等の解析には困難が伴います。本研究で開発したプログラムにより、どの変数が寄与するか依存関係推定することで、物理現象のモデル化を助け、今後の核融合炉の物理現象解析に役立つことが期待されます。
本研究は、京都大学大学院の大学院生安齋亮慶、成田絵美講師らの研究グループによって進められました。
この研究成果は、米国物理学協会が刊行する学術論文誌「フィジックス・オブ・プラズマズ」に2025年3月20日付けで掲載されました。また、本研究で作成した因果探索プログラムIEDSは先行研究で開発されたコードと同様に公開されます。