研究成果

新しい位相空間観測方法「位相空間トモグラフィ」を提案

位相空間に発生する揺らぎ構造を計測するため、3種類の異なる計測器を連携させてデータを取得し、トモグラフィ※1手法を用いて解析を行う「位相空間トモグラフィ」法を提案しました。提案された手法は大型ヘリカル装置(LHD)における模擬データ解析に適用され、位相空間揺らぎが再構成されることが示されました。本研究成果は、核融合発電の異常輸送物理の解明に必須である、位相空間乱流の計測に新たな道筋を付けると期待されます。


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直接計測の困難な位相空間揺らぎデータを、速度積分データ、空間積分データ、時間積分データを組み合わせてトモグラフィアルゴリズム(MLEM法)によって再構成する様子。

磁場閉じ込めプラズマは非常に希薄であるため、粒子同士の衝突機会が少なくなります。また、電気的な性質を持つため、発生する静電波動により粒子が補足されます。補足された粒子は、波乗りのように静電波動と共に移動しながら、1波長分の距離を往復運動します。この間に、波と粒子はエネルギーや運動量をやりとりし、さらに複雑な振る舞いをするようになります。これらの低衝突プラズマ特有の運動の結果として、磁場閉じ込めプラズマの温度を下げてしまう輸送現象や、それとは逆にプラズマの温度が上がる加熱現象が発生することが理論的に知られています。これまでこのような現象は、波と粒子の相互作用や、それによるプラズマの速度分布関数揺らぎの観測が困難であったため、実際に発生しているかどうか確かめることができませんでした。ここで、速度分布関数とは、プラズマの粒子が全体としてどのような運動をしているのかを表す指標です。揺らぎのない状態では、粒子は平均的な運動速度をしている粒子が一番多く、極端に速い(遅い)粒子は少ない、という「正規分布」をしていると考えられます。

位相空間揺らぎの計測は、これまで行っていた時間・空間に加え、速度空間にも信号を分解しなければなりません。速度空間に信号を分解することのできる計測原理は限られるため、位相空間揺らぎの計測は非常に困難です。また、分解能を高めると検出器1素子あたりの信号量が減少してしまうため、計測が難しくなってしまいます。

信号強度と時間・空間・速度空間の分解能を両立させるため、3種類の異なる計測器で同一箇所を計測し、トモグラフィ手法を用いて元の揺らぎデータを再構成する、「位相空間トモグラフィ」を開発しました。3種類のデータは、それぞれ、速度空間、実空間、時間に積分されたもので、従来の計測器を用いて取得することができます。トモグラフィ手法により3種類の計測器で得られるデータを組み合わせ、積分によって失われた分解能を回復できることが示されました。論文では、解析手法のコンセプトとテストデータを用いた解析のデモンストレーションが示されました。

この研究成果は、米国物理学協会が刊行する学術論文誌「フィジックス・オブ・プラズマズ」に2023年5月23日付けで掲載されました。

論文情報

  

用語解説

※1 トモグラフィ:人体や文化財などを対象に、物体断面を破壊せず計測する際に用いる解析手法。対象物にX線などを多方面より照射し得た透過データを、コンピュータ上で組み合わせ、断面情報を再構成する(コンピューテッド・トモグラフィ、CT)。プラズマ診断では温度や密度などの局所データは容易には得られないため、多方面より得られる積分データを組み合わせ、プラズマ断面の構造を得るトモグラフィ計測がよく用いられる。