研究成果

中心が凹んだ温度分布を持つプラズマの輸送を
熱パルス伝播で調べる

核融合プラズマの熱輸送は温度勾配で表されるモデルがよく使われています。それに対して、プラズマ中心から離れた狭い領域を加熱して、中心が凹んだ特異な温度分布を持つプラズマを作った状態で、中心付近の狭い領域を追加熱すると、熱パルスが温度勾配に逆らって伝播する過渡現象が観測されました。また加熱を入り切りすることで、駆動される熱の流れが温度勾配だけでは決まらないことが実験的に評価されました。

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プラズマ中心を加熱すると、プラズマの外側へ熱パルスが伝播する。中心が凹んだ形状の特異な温度分布では、温度分布の「坂」を登って熱パルスが伝播していく。加熱を続けると温度分布は通常よく見られる尖った形状に次第に落ち着いていくが、その間の過渡的な熱パルス伝播現象は熱拡散と熱対流を含むモデルでは説明できない。本研究では実験的に熱の流れる量と温度勾配のヒステリシスな関係を直接観測した。

核融合発電の実現のためには、高温プラズマを生成する必要があります。加熱パワーが同じでも、加熱する位置が変われば、生成されるプラズマの温度分布は異なります。 異なる温度分布が形成される仕組み(閉じ込め・輸送)を研究することが大事です。

通常熱輸送は温度の勾配によって駆動される(温度の高いところから低いところへ熱が流れる)モデルで考えられています。これを熱拡散と呼びます。大型ヘリカル装置(LHD)には、プラズマの狭い領域を加熱できる電子サイクロトロン加熱(ECH)という外部加熱法があります。通常は高温プラズマを生成するためにプラズマ中心を加熱して、中心が尖った電子温度分布を形成することが多いですが、本研究ではあえてプラズマ中心から離れた位置を加熱することで、中心が凹んだ電子温度分布を形成できることをまず観測しました.熱輸送が温度の勾配によってのみ表されるならば,中心が凹んだ分布においては、中心に向かって熱が流れます。しかし中心から離れた位置を加熱した場合、熱は外に逃げていき、中心に向かう熱は観測されません。これは、温度勾配によって駆動される内向きの熱の流れをキャンセルするために、外向きの熱の流れが必要であることを意味しています。この外向きの熱の流れは、温度勾配によって駆動されるものではない、非拡散的なものです。温度分布が変わらない定常な状態においては、この外向きの熱の流れを、熱対流によって表現することが可能なように見えます。実際にLHDプラズマの電子温度分布もそのようなモデルで再現することができました。

次に、中心が凹んだ電子温度分布の状態に、追加的にECHを中心に印加したら、プラズマがどのような応答をするかを実験的に調べました。つまり中心から熱パルスが外側へどのように伝播するかの過渡応答を、電子温度分布の時間変化から調べました。すると、熱パルスは過渡的に温度勾配に逆らって伝播しました。つまり温度の低いところから高いところへ正味の熱が過渡的に流れました。また中心加熱によって、電子温度分布が凹んだ形状から尖った形状に時間変化していきますが、その間にちょうど平らになる(温度勾配がゼロになる)ときがあります。その時も正味の熱が外へ流れていました。このように温度勾配と駆動される熱の流れの関係を実験的に直接調べることで、LHDプラズマの熱輸送は熱拡散モデルでは説明できない場合があることを明らかにしました。

その後、中心加熱を切った時に、温度分布が尖った形状から凹んだ形状に再び戻っていく過程の、温度勾配と駆動される熱の流れの関係を調べると、中心加熱していたときの過程と異なることが分かりました。これを輸送のヒステリシス(履歴現象)と言います。これは、ある位置の輸送はその位置の温度勾配や温度だけでは決まらないことを示しています(非局所輸送)。また、中心加熱を入れたり切ったりすることで、このヒステリシスが繰り返されることが観測されました。このように電子温度が尖った分布・平らな分布・凹んだ分布の状態を行き来することで、熱対流を連想させる非拡散的な熱輸送の非局所性が実験的に明らかになりました。この成果は、核融合プラズマの輸送現象に新たな知見を与えるものです。

本研究は、核融合科学研究所の辻村亨、小林達哉らの研究グループによって進められ、この研究成果は米国物理学協会が刊行する学術論文誌「フィジックス・オブ・プラズマ」に2022年3月2日付けで掲載されました。

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