炉心と壁前面のプラズマ分布の隠れた関係性を明らかに
大型ヘリカル装置(LHD)で取得された大規模データセットに多変量解析手法を適用し、炉心プラズマ分布と壁前面のプラズマ分布との間に有意な関係性があることを示しました。この成果は、将来の核融合装置壁における熱負荷予測の高精度化に役立ちます。
核融合炉では、1億度を超える「炉心プラズマ」は磁場のカゴにより宙に浮き、壁と直接触れることはありません。しかし、カゴから漏れ出た一部のプラズマは、磁力線に沿って脚のような形状を作り、「ダイバータ板」と呼ばれる耐熱性の材料(炭素やタングステン)へと接続します。将来の発電炉では、炉心から漏れ出るプラズマ熱流は既存の装置より膨大となり、それを低減する手法の確立が求められています。加えて、熱負荷を正確に予測するため、ダイバータ板に繋がるプラズマの脚が、板上でどのような足跡をつくるのか、その決定機構を理解しておくことが重要です。大型ヘリカル装置(LHD)では、足跡の分布がどのように決まるのか、複数の要因がこれまでに明らかにされてきました。しかし、一部の分布変化については、そのメカニズムが十分にわかっていませんでした。
本研究では、LHDで過去に取得された1年分の大規模実験データを使って、ダイバータ板に到達するプラズマ粒子の流れ(ダイバータ粒子束)の分布と、炉心プラズマパラメータ(電子静圧)の分布の間の関連性を調べました。まず、これまでに既知となっている分布変化要因(例えば、プラズマ外部から印加する磁場を変えると、足跡の分布が変わります)を除外したデータセットを抽出し、次に、多変量解析手法の一つとして知られる経験的固有直交展開法を、ダイバータ板上と炉心の両方のプラズマデータへと適用しました。この解析法を使うと、時空間にわたるデータセットを、空間と時間を変数とするそれぞれ独立した複数の成分(モード)へと分解することができます。
解析結果から、ダイバータ板上の分布は、直交展開から得られた第一モードと第二モードの空間成分でほとんどが決まり、その係数(時間成分)の比を指標とすることで、分布の特徴を表現できることがわかりました。さらに、この指標と、炉心プラズマのいくつかの主要なモードの間には、有意な相関関係があることが確認されました。この結果から、これまで十分に原因がわかっていなかった足跡の分布変化は、特定の炉心プラズマの分布によって、ダイバータ板まわりの磁場構造が変わることで説明できると示されました。
本研究は、名古屋大学の田中宏彦、核融合科学研究所の増崎貴らの研究グループによって進められました。
この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2023年3月29日付けで掲載されました。