インピーダンス変換器によるICRFアンテナ性能の向上
プラズマを高温に加熱する手法の一つにイオンサイクロトロン周波数帯(ICRF)加熱があります。これは通常数十メガヘルツの周波数の電磁波を用いてプラズマ中のイオンや電子を加熱する手法です。大型ヘリカル装置(LHD)にはICRF加熱用のアンテナ(電磁波をプラズマへ送るための装置)が2種類備わっています。一つはFAITアンテナと呼ばれ、もう一つはHASアンテナと呼ばれています。
FAITアンテナは高出力運転に最適化させたICRFアンテナです。具体的には、ヘッドを小さくすることで高出力でもアンテナヘッドにかかる電圧を小さくし、さらに内部インピーダンス変換器(IVIT)を用いてLHD内の真空を保つ重要な部品であるセラミックフィードスルー付近の電流、電圧を抑え、上流側の伝送路電圧も抑える機能を持たせました。図に示しますように、今回の改良ではセラミックフィードスルー直前に外部インピーダンス変換器(EVIT)も取り付け、さらなる高出力化を目指しました。負荷抵抗という伝送パワーを伝送路電圧の2乗で規格化した値がアンテナの性能評価に使われています。負荷抵抗が大きいほど、伝送路電圧が抑えられ、大電力入射が可能となります。LHDでの入射実験の結果、シミュレーションと同等の2.5倍程度に負荷抵抗が上昇していることが分かりました。これにより短パルス運転なら、FAITアンテナ1本あたり2 MW程度までの入射が可能となりました。
HASアンテナは磁力線に沿った方向の波数を制御できるICRFアンテナです。但し、最初は負荷抵抗が非常に小さく、高出力運転には向いていませんでした。そこで、2014年にEVITを取り付けることで負荷抵抗を約2倍にしました。2010年にセラミックフィードスルーのセラミック(図中の円錐形の部品)が運転中に割れ、真空が破れたこともあり、セラミックフィードスルーの保護も重要な課題でした。このような問題はEVITでは解決しません。そこで、FAITアンテナのようにセラミックフィードスルーとアンテナヘッド間をIVITに改良しました。プラズマへの入射実験では負荷抵抗が約4倍になっていることが確認されました。これはシミュレーションの結果とほぼ一致していることから、シミュレーションで予測されるEVIT~アンテナヘッド間でのパワー損失の60%低下やセラミックフィードスルーでの電流、電圧の50%低下(パワーが一定の場合)も実現できていると思われます。この改良によりHASアンテナでは短パルス入射ではアンテナ1本あたり1 MWの入射パワーが達成されています。
本研究は、核融合科学研究所の斎藤健二、関哲夫、笠原寛史らの研究グループによって進められ、この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2022年3月18日に掲載されました。