2021年2月10日 ⎮ 研究成果 地球の裏から遠隔実験 ~地球一周ルートで実験データの高速転送を実証~
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将来のITER実験では、全データがフランスから日本まで高速伝送される予定であるため、 NIFS(岐阜県)からITER遠隔実験センター(青森県)までSINET5地球一周経路(岐阜-東京-アムステルダム-ニューヨーク-ロサンジェルス-東京-青森)を介してLHD全データを高速転送する模擬実験を行いました。地球一周の通信に400ミリ秒(0.4秒)かかる長距離のため、多数データファイルを順次転送すると、切替処理のオーバーヘッドが増えて平均転送効率が低下する現象が観測されました。また、国内向けにデータを中継転送する中間サーバに高速な送受信バッファが必要なことも改めて確認されました。
フランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)では、膨大な実験データを超高速に長距離伝送する技術が不可欠で、日本のITER遠隔実験センターに大量データを高速複製する試験が進行中です。LHD実験データを用いてSINET5の地球一周経路を転送する実験を行った結果、通信開始時の処理が長くなる問題と、送受同時負荷がかかる国内への中継転送サーバに高速バッファ(SSD)の必要性が判明、2025年ITER実験開始に向けた技術改良に活かされます。

日本を含む世界7ヶ国・地域の国際連携により、2025年の実験開始に向けてフランス南部プロヴァンスで建設が進む国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)では、1日あたり数ペタバイト(1015バイト)という大量の実験データが生み出されます。現地サイトでは全データを処理しきれないため、各国が協力して解析にあたりますが、そのためには地球半周の距離を高速転送してデータを複製する技術が不可欠で、高速かつ大容量なデータ書き込み・読み出しシステムも必要になります。

これまで本研究チームは、ITER国内実施機関である量子科学技術研究開発機構(QST)および国立情報学研究所(NII)と共同研究を続け、LHDで大量に得られたプラズマ実験データとNIIが開発した超並列恒速データ転送手法MMCFTPを活用した技術検討と実証実験を行ってきました。その結果、ITERの初期データ量である実験1回あたり1テラバイト(毎秒2ギガバイト×500秒)のフランス⇒日本間データ転送は、ほぼ実現できる技術的見通しがつきました。

しかし、送信元から直接複数の送り先に大量データを送信すると、送信元にネットワーク帯域やデータ読出し負荷が過度に集中するため、複数の送り先を数珠つなぎ(デイジーチェーン)にして多段中継するのが、負荷集中を抑える有効な方策となります。今回の研究では、このデータ中継が地球規模の長距離通信で効率的に行えるかを検証するべく、地球一周するSINET5国際回線上にL2VPN経路(土岐-岐阜-東京-アムステルダム-ニューヨーク-ロサンジェルス-東京-青森-六ヶ所)を開設して、データ転送実験を行いました。この地球一周経路の通信応答時間はおよそ400ミリ秒です。

NIFS(岐阜県土岐市)にあるLHD実験の全データを、地球一周して青森県六ヶ所村にあるITER遠隔実験センター(REC)に一旦複製し、そこから即座にNIFS(岐阜)あるいはNII(千葉)まで再転送を行いました。両端の国内回線は物理帯域が毎秒10ギガビットであるため、実験速度はその8割にあたる毎秒8ギガビットの設定で、地球一周、国内再転送いずれの経路でも、ほぼ設定値どおり速度を安定に維持できました。

しかし、この地球一周経路の実験により、MMCFTPがデータ転送開始前に行う多数並列接続の開設処理に、通信応答時間の長さに応じてより時間がかかる問題が新たに判明しました。18ギガバイトのデータを多数回繰り返し転送する実験では、国内転送時(通信応答時間=約16ミリ秒)は効率が約91%であったのに対し、地球一周(同、400ミリ秒)では約71%に低下しました。データサイズが小さくなると効率が更に下がるため、今後のデータ転送法の改良につながる重要な発見となりました。

同時に実施したデータ保存装置の性能評価では、NVMe半導体ディスク(SSD)とiSCSI磁気ディスク(HDD)の多並列(ストライピング)保存装置で、ITER初期データ生成レート(毎秒2ギガバイト)より数倍高い性能が確認できた一方、データ保全のため冗長化構成にしたSSD/HDDストレージでは十分なデータ入出力速度を確認できませんでした。これらの知見は、ITER最盛期のデータ生成レートである毎秒50ギガバイトが十分扱えるシステム性能を達成するべく、データ保存装置や中継転送用サーバの技術改良・設計最適化に活かされます。

本研究は、核融合科学研究所の中西秀哉らの研究グループと、量子科学技術研究開発機構六ヶ所核融合研究所の德永晋介・石井康友、国立情報学研究所の山中顕次郎らの協力によって進められ、この研究成果は、H. Nakanishi et al., "Demonstration of High-Speed Data Replication Relay Across Multiple Repository Sites Using a Global Loop Path", Plasma and Fusion Research 16 (2021) 2405017.として、プラズマ・核融合学会から出版されている英文電子ジャーナル「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2021年2月10日付けで掲載され、同2021年3月号のプラズマ・核融合学会誌(和文誌、第97巻第3号)において表紙絵を飾りました。

  • プラズマ・核融合学会誌2021年3月号(第97巻第3号)表紙絵: http://www.jspf.or.jp/journal/cover/9703s.jpg