LHDの中に蓄積する不純物層の分布をシミュレーションで完全再現
大型ヘリカル装置(LHD)ではプラズマ実験を行う毎に、装置の中に不純物の層が地層のように蓄積していきます。この層は脆いので過度に蓄積すると、剥がれてしまう性質があります。この剥がれた不純物層がプラズマに入ると、プラズマが消失してしまいます。本研究によって、不純物層が蓄積しやすい場所をシミュレーションによって完全に再現できることが分かりました。これは核融合炉の安定な運転の実現に貢献できる研究成果です。
核融合炉では、プラズマを安定に生成・維持することによって核融合反応を発生させて定常的にエネルギーを取り出します。その際、高温・高密度のプラズマが、核融合炉の真空容器の壁あるいはダイバータ※1部と呼ばれる場所に接触することによって不純物が発生します。プラズマを維持している時間が長くなると、不純物は真空容器の中あるいはダイバータ部の付近に蓄積されて、不純物を含んだ層が形成されます。この不純物層は脆いので過度に厚く蓄積されると突然剥がれて、不純物を含んだ細かな塵(ダスト)になります。核融合炉の中でプラズマが生成されている最中に、このダストが大量にプラズマの中に入ってしまうと、不純物イオンが生成されてプラズマから大量のエネルギーを奪ってしまい、あっという間にプラズマが消えてしまうことが分かっています。このことから、核融合炉の中のどの部分に不純物層が蓄積されるのか精確に予測できれば、あらかじめそれを防止するための対策をとることができ、核融合炉をさらに安定に運転できるようになると期待されます。
図中の左上の写真は、一連のプラズマ実験後に撮影されたLHDのダイバータ部の一部の写真です。黒い色の濃い部分が見られますが、これは厚い不純物層が形成されたことを示しています。また、不純物層の一部が剥がれた痕跡が見られました。剥がれた不純物層はバラバラに砕けて不純物を含んだ大量のダストになり、プラズマを安定に維持する上で大きな妨げになる恐れがあります。そこで、厚い不純物層が形成されないように、ダイバータ部の一部の形状を変更することにしました。右上の写真は、ダイバータ部の形状を変更した後に、一連のプラズマ実験を行った後に撮影された状態を示しています。形状変更前と異なり、ダイバータ部全体の色が薄くなっています。これは不純物層の厚さが薄いことを示しています。また、形状変更後は不純物層が剥がれた痕跡は確認されませんでした。ダイバータ部の形状の変更によって不純物層の剥離とダストの発生を抑制でき、安定なプラズマの維持に有効であることが示されました。
核融合科学研究所の研究チームはドイツのユーリッヒ総合研究機構(FZJ)で開発されたプラズマ・壁相互作用シミュレーションコードERO2.0を用いて、LHDのダイバータ部の形状変更前と後における不純物層の蓄積分布の再現を試みました。左下の図は、ダイバータ部の形状変更前における不純物層の厚さの分布を示したシミュレーションの結果です。変更前は厚い不純物の層が形成されることが分かりました(図中の赤い部分)。これは実際の状態(左上の写真)を良く再現しています。また、不純物層が剥がれた部分は、シミュレーションでは厚い不純物層が形成される場所と良く一致しています。一方、右下の図は形状変更後の不純物層の厚さのシミュレーション結果です。厚い堆積層(赤い部分)は形成されないことが示されています(この場合、堆積層の剥がれは発生しない)。この結果は、実際のダイバータ部の状態(右上の写真)を良く再現しています。
本研究によって、プラズマ・壁相互作用シミュレーションコードERO2.0を使用することで、LHDの真空容器の中あるいは、ダイバータ付近に蓄積する不純物層の厚さとその分布を精度良く再現することに成功しました。これにより、ERO2.0コードによって、将来の核融合炉においても不純物が蓄積されやすい場所を高い精度で予測できると期待されます。また、このコードを使用して、不純物層の過度な蓄積を抑制するための有効な手段を見つけ出すことができ、今後、さらに安定な運転が可能な核融合炉の実現に貢献できると期待されます。
本研究は、核融合科学研究所の庄司主と河村学思らの研究グループと、ドイツ・ユーリッヒ総合研究機構のロマザノフ、キルシュナーらとの国際共同研究によって進められ、この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2020年12月14日付けで掲載されました。
論文情報
用語解説
※1 ダイバータ:プラズマに不純物が入るのをそらす仕組み。
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