研究成果

プラズマ中の不純物量を示す実効電荷数"Zeff"の計測を改善

大型ヘリカル装置(LHD)におけるプラズマ中の不純物量を表す実効電荷数(Zeff)計測の改善を行いました。これまでの計測では、水平方向に長いプラズマ断面に対する可視光の信号を利用してZeffの評価を行っていましたが、プラズマ周辺の光の影響で過大評価された数字が算出されていました。この影響を避けるために、垂直方向に長いプラズマ断面に計測視線を変えることでZeff評価の改善に繋げることができました。

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大型ヘリカル装置(LHD)の計測視線。可視分光器で得られた計測スペクトルから制動放射光得ることでZeffを求める。

プラズマ中の不純物量を評価するための物理量”実効電荷数(Zeff)"は、プラズマ中の原子核の荷電数や密度に伴って増加する制動放射光を利用して評価されます。一般的には温度の影響がなく、計測が容易な可視光が利用されますが、計測される光には評価したい制動放射光以外の様々な発光(例えばエルゴディック層と呼ばれる周辺プラズマからの発光や壁からの反射など)が混入してしまうため、過大評価になってしまいます。そこで、エルゴディック層が薄く、壁からの反射が少ない“垂直方向に長いプラズマ”を計測できるポートに可視分光器を設置することで、周辺プラズマからの影響を軽減させ、Zeff評価を改善することに成功しました。

従来の制動放射光計測は、横に長いプラズマに対して水平方向に40本の計測視線を設置した可視分光器を利用していました。制動放射光はプラズマの電子密度の2乗におおよそ比例するのですが、この分光器で計測された制動放射光は想定される発光量を遥かに上回ります。特にLHD実験でよく行われる内寄せのプラズマ(磁気軸Rax=3.6 m)条件時では、上半分の評価値がLHDのプラズマでは考えられないような過大な値となって算出されることがありました。これには様々な原因が挙げられますが、計測視線上の磁場や対向面などの複雑な構造から、非一様な制動放射線の放出や不純物線の混入、さらに壁からの反射が疑われ、正しいZeffが評価されていないと考えられました。そこで、比較的シンプルな構造を通る計測視線をもつ縦長断面に計測ポートを変えたところ、非一様な制動放射は信号から消え、観測された制動放射分布はドーナツの内側と外側でほぼ対称になっていることがわかりました。また、Zeffも対称的な分布であることが確認され、中心プラズマの不純物が一様である可能性が実験的に示唆されました。これにより、非一様な制動放射分布では算出が難しかったZeffの局所的な評価に繋がることが期待されます。

Zeffはプラズマのパフォーマンスの指標やプラズマ輸送解析などにも用いられる、核融合プラズマ研究にとって重要な物理量です。エルゴディック層が厚い計測視線や電子密度が低いプラズマではまだまだ正確なZeffを評価することが難しいのですが、今後も解析を進めることで、Zeffの過大評価が起こる原因や、プラズマの密度が低い場合でも十分な精度を出せるように解析を進めていきます。

本研究は、核融合科学研究所の川本靖子らの研究グループによって進められ、この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2021年7月7日付けで掲載されました。

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