研究成果

磁場と密度揺動の不思議な相互関係

大型ヘリカル装置(LHD)で生成されるHモードプラズマ中に、粒子の揺らぎで表す密度揺動と閉じ込め磁力線の揺らぎで表す磁場揺動とに対して、計測データの解析を行い、高調波では密度揺動と磁場揺動との位相がランダムに違う現象を初めて発見しました。本研究成果は、Hモードプラズマの密度揺動は必ずしも磁場揺動と同じ振る舞いをしないことを示し、核融合発電に向けて磁場揺動とは別に、密度揺動の計測と制御も重要な役割を果たすことを示唆します。

image
(上)密度揺動と磁場揺動それぞれのスペクトル。いずれも1.3,2.6,3.9 kHzにおいてコヒーレントな基本波・高調波関係が見える。(下)各周波数に両者のコヒーレンス。基本波だけ相関が高く、高調波での相関は低い。

image
模式図. 密度揺動と磁場揺動は基本波では同じ位相を保ち、高調波での位相はランダムに違う。

核融合プラズマには加熱パワーの制御によりL-Hモード遷移という閉じ込め性能が改善される有利な現象起こります。モード遷移の後、プラズマの密度と温度が上昇し、周辺部に高い勾配を持つペデスタル構造を形成します。LHDの場合は特殊なモード遷移となり、プラズマ密度の閉じ込め改善が起きるのに対して、温度の閉じ込め改善は起きません。この通常のHモードとの仕様の違いは磁気流体力学(MHD)的な揺動が関与する分布飽和機構の違いによるものと考えられますが、具体的な仕組みにはまだ定説がありません。本研究はMHDと関連する磁場揺動と、輸送による分布飽和機構と関連する密度揺動との相関関係を調べるために、密度揺動と磁場揺動との計測信号に対して周波数領域および時間領域において解析を行いました。

対象放電(#156774)の磁場揺動は磁気プローブで電磁誘導の法則を原理に計測されました。密度揺動はビーム放射分光計測(BES)を使用して信号を取得しました。BESでは、プラズマ加熱用の中性粒子ビームをプローブとしてプラズマに向けて入射し、ビーム粒子のドップラーシフトしたH-alpha放射成分を分光器で抽出して時間分解能の高い光学素子で測ることによって、局所な密度揺動を計測しています。Hモードプラズマ中では密度揺動と磁場揺動とはそれぞれ1.3,2.6,3.9 kHzにコヒーレントな基本波・高調波がみられましたが、基本波のみ両者のコヒーレンス・相関が高く、高調波ではコヒーレンス・相関は低いという複雑な観測結果が得られました。従来のMHD理論では、プラズマ粒子は磁力線と一体的動くと考えられ、密度揺動の高調波はそれぞれ対応する磁場揺動の高調波によって励起されると認識されています。今回の解析結果は、密度揺動と磁場揺動とは基本波では同じ位相を持っているのに対し、高調波での位相はランダムに違うと考察し、密度揺動は必ずしも磁場揺動によって励起されるものでないことを示しました。これによって、磁場揺動とは別に密度揺動に対する高度な計測は大きな意義を持つようになりました。

この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2021年3月19日付けで掲載されました。

論文情報