研究成果

大域的なプラズマ揺らぎの特徴的な微細構造を初めて観測

磁場閉じ込めプラズマでは、回転停止後に急激に成長するという性質を持つ揺らぎが問題となっています。LHDでの新規計測手法により回転減速時の温度揺らぎの微細構造を計測することに成功しました。小半径方向の温度分布が平坦になったり傾きを持ったりと時間的に変化する領域がありますが、この一部に定常的に平坦化している領域があることを初めて発見しました。この成果は上記揺らぎの解明に貢献し、本計測手法を用いた他の揺らぎの研究も進展させます。


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大型ヘリカル装置(LHD)では入れ子状の磁場のかごによりプラズマを閉じ込めるが、回転する揺らぎが現れ、それが成長することで閉じ込め性能が劣化することがある。具体的には、右下図のように磁気島と呼ばれる三日月状の磁場構造が形成されて回転すると、それが温度揺らぎをもたらす。本研究では、温度揺らぎの空間構造を調べるために、小半径方向の温度分布を高速に計測した。

磁場閉じ込めプラズマでは温度・密度や磁場の揺らぎが観測されます。揺らぎはプラズマと共に回転して、回転が低下した後に急激に成長することがあります。このような揺らぎの成長はプラズマ閉じ込め性能の深刻な劣化をもたらすため、その性質を理解して制御することが課題となっています。

LHDでもこのような揺らぎの成長(ロックトモード様不安定性※1)が観測され、成長前の揺らぎの特徴が調べられています。揺らぎを特徴づける重要なパラメータはその空間構造で、それを調べるために電子温度の小半径方向(図参照)の空間分布を計測します。これまで、この計測には電子サイクロトロン計測と呼ばれる手法が用いられてきましたが、この手法では計測チャンネルの間隔が広いため大域的な構造しか分からず、微細な構造は議論できませんでした。

LHDはチャンネル間隔が狭い計測手法であるトムソン散乱計測を有していますが、計測間隔が長すぎる(33 Hz)ため、減速する揺らぎ(数百Hz)の計測は困難でした。しかし、最近、ウィスコンシン大学マディソン校と核融合科学研究所との共同研究によって、トムソン散乱計測の計測間隔を短くした運転(1 kHz)が可能になり(高速トムソン散乱計測)、減速する揺らぎの計測ができるようになりました。

そこで、本研究チームは、この高速トムソン散乱計測を用いて、揺らぎの減速時における温度分布の時間変化を調べました。減速の初期では、時間の経過とともに図aの赤と青の温度分布が交互に現れることが分かりました。この分布の変化は、磁気島と呼ばれる、特定の小半径に局在化した特徴的な磁場構造(図参照)が回転していると解釈できます。磁気島が形成されると、磁気島のO点と呼ばれる領域では温度分布が平坦になりますが、X点では温度分布への影響は小さいです。そのため、固定した位置で計測すると、磁気島が回転していれば磁気島のO点とX点が交互に現れ、図aのような分布の変化が得られます。一方、減速の終盤では、回転する磁気島に加えて、常に平坦になっている領域が観測されました(図b黄色)。このような定常的に平坦な領域は、磁気島に比べるとかなり微細な構造であり、従来の計測手法では計測できませんでした(空間に大きく広がっている場合の磁気島構造は従来の計測手法で観測されています)。新たな計測手法である高空間分解能かつ高速な高速トムソン散乱計測を揺らぎの計測に適用することで、新たな発見につながりました。

この成果は、微細構造が揺らぎの減速機構を解き明かすために重要であることを示唆しています。また、今回の知見を踏まえ、LHDで観測されている他の揺らぎにも高速トムソン散乱計測を適用することで、新たな発見につながることが期待されます。

本研究は、核融合科学研究所の武村勇輝の研究グループとウィスコンシン大学マディソン校のD. J. Den HARTOGとの協力によって進められ、この研究成果は、プラズマ・核融合学会のオンライン学術論文誌「プラズマ・アンド・フュージョン・リサーチ」に2021年8月2日付けで掲載されました。

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