高エネルギー粒子の異方性を観測
大型ヘリカル装置(LHD)の重水素プラズマ実験において、中性子エネルギー分布計測器を用いることで、中性子エネルギーのドップラー効果によってエネルギー分布が変化する現象(ドップラーシフト)を観測しました。高エネルギー粒子の軌道を追跡する数値シミュレーションとの比較を行うことで、プラズマ内に閉じ込められている高エネルギー粒子の速度分布が入射するイオンビームの向きによって変化し、異方性を示すことを明らかにしました。この成果は、高エネルギー粒子の閉じ込め研究の深化に大きく貢献するものです。
将来の核燃焼プラズマは、核融合反応で生成されたアルファ粒子によって加熱されます。しかし、このアルファ粒子とプラズマ中の波の相互作用によってアルファ粒子が輸送されてしまうという懸念があります。核燃焼プラズマにおけるアルファ粒子の挙動を理解・予測するため、大型ヘリカル装置においては、ビームイオンを用いた高エネルギーイオンの閉じ込め研究を行っています。このプラズマ中の波の励起においては、高エネルギー粒子の空間的な圧力勾配が重要であると考えられていますが、理論シミュレーションによると、高エネルギー粒子の速度分布にも関係することが予測されています。
本研究チームは、将来の核融合炉の核燃焼プラズマにおけるアルファ粒子とプラズマ中の波との相互作用に係る理解の深化を目的として、大型ヘリカル装置の重水素プラズマ実験において、中性子エネルギー分布を計測することによって高エネルギー粒子の速度分布の観測を行いました。重水素プラズマ中では、主に高エネルギー粒子と主プラズマ粒子との反応によって中性子が発生します。高エネルギー粒子の速度が非常に速いので、発生する中性子のエネルギーは、高エネルギー粒子の速度を反映した形になります。高エネルギー粒子の速度分布が等方的であれば、中性子のエネルギーは高エネルギー粒子の速度に応じて広がりますが、高エネルギー粒子の速度分布に異方性がある場合、中性子のエネルギーは高エネルギー粒子の速度に応じてドップラーシフトした形を取ります。
本研究チームが開発した小型中性子スペクトロメータを用いて中性子のエネルギーを測定したところ、ドップラーシフトが見られました。その後、実験データに基づく高エネルギー粒子軌道追跡シミュレーションを行ったところ、数値シミュレーションで得られた中性子のエネルギー分布は、観測結果と一致し、高エネルギー粒子の速度分布に異方性があることを示しました。これは、高エネルギー粒子とプラズマ中の波との相互作用に係る理解の深化に貢献するものです。
本研究は、核融合科学研究所の小川国大、磯部光孝らの研究グループ、タイ・マハサラカム大学のS. Sangaroon博士、中国科学院プラズマ物理研究所のZ. Q. Zhong博士との協力によって進められました。
この研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2024年5月21日付けで掲載されました。