研究成果

MHD不安定性とは関係のない高エネルギーイオン閉じ込め悪化現象を発見

大型ヘリカル装置(LHD)の重水素実験において、MHD不安定性とは関係のない、高エネルギーイオンの閉じ込め悪化現象を発見しました。悪化度合いは中性粒子ビームの出力に比例しており、プラズマの中心部分で特に顕著に現れています。この現象を引き起こしている原因は未解明のままであり、研究の継続が必要です。

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縦軸はビーム出力あたりの中性子発生率を時刻 t = 4.2 s の値で規格化したもの。横軸は放電開始からの経過時間。時刻 t = 4.3 s からビームの出力が2倍になっている。色の異なる線は、密度を変えた別の放電での結果を示している。殆どの放電で、ビーム出力を2倍にした時間帯で、ビーム出力あたりの中性子発生率が減少している。この減少は従来の予想では起こらないものであり、高エネルギーイオンの閉じ込め悪化が現れている。

磁場閉じ込め型の核融合炉では、プラズマを加熱するために中性粒子ビームが広く用いられています。中性粒子ビームの出力は計測可能ですが、そのうち何割がプラズマを加熱できたのか(加熱効率)は計測できません。このため、一般的に、ビームによるプラズマ加熱はシミュレーションによって推定されています。シミュレーションは理論に基づいて計算しているため、未知の閉じ込め悪化現象があれば、当然、推定値は現実を再現できません。

これまで、ビームによって生成される高エネルギーイオンの閉じ込めは、MHD不安定性が無視できる場合、ある程度、理論的に予測ができると考えられていました。このため、MHD不安定性と高エネルギーイオン損失に関する研究は広く行われていましたが、MHD不安定性が無視できる場合の、高エネルギーイオン閉じ込め性能に関する研究は、ほとんど行われていませんでした。

この論文で報告した高エネルギーイオン閉じ込め悪化現象は、閉じ込め悪化の度合いがビームのパワーに比例するというもので、これはMHD不安定性と関係のある閉じ込め悪化現象と似た性質を持ちます。しかし、計測上、MHD不安定性はビームのパワーを増やしても変化していないため、全く別の現象であるということが、論文中で示されています。

従来のシミュレーションではビーム出力の70 %程度がプラズマの加熱に寄与していると推定されていましたが、今回の閉じ込め悪化現象をシミュレーションに取り入れた場合、およそ40 %程度しかプラズマ加熱に寄与していないという推定になります。

この閉じ込め悪化現象は中性子計測、不純物イオン計測、ならびにシミュレーションによって明らかになりました。重水素イオン同士の核融合反応によって生じる中性子は、直接計測することのできない高エネルギーイオン密度に関する重要な指標です。このため、今回の閉じ込め悪化現象はLHDの重水素実験がなければ発見できませんでした。

本論文では高エネルギーイオンの閉じ込め悪化現象の存在を明らかにしましたが、その原因についてはまだ明らかになっていません。原因を明らかにしなければ、上述の加熱効率の低下現象を改善できません。加熱効率の低下は核融合炉の経済性を著しく下げてしまうので、この現象の解明は核融合炉の実現にとって非常に重要であり、今後の研究の継続が必要です。

本研究は、核融合科学研究所の奴賀秀男らの研究グループとカリフォルニア大学の神尾修司、藤原大との協力によって進められました。

この研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2024年4月18日付けで掲載されました。

論文情報