ダイバータ内部で超高中性子圧力を達成
大型ヘリカル装置(LHD)の高密度実験において、ダイバータ内部の中性粒子圧力が非常に高くなる現象を初めて観測しました。この現象は不思議なことに、ある特定の磁場配位でのみ観測されています。ダイバータには、不純物の除去を行うとともに、内部の中性粒子の量を高めて、効率よく粒子を排出することにより粒子制御を向上させる役割があります。今回の成果は、磁場配位を最適化することによってダイバータ内部の中性粒子圧力を高めることができることを意味しており、核融合の原型炉の設計にとって重要な知見を与えるものです。
核融合発電は、1億度を超える高温プラズマに水素燃料を注入し、注入された水素が高温のイオンとなって核融合反応を起こすことで成立します。イオン化した水素(燃料粒子)は時間の経過とともにプラズマの外に排出され、一部はプラズマを閉じ込める容器の壁で跳ね返って再びプラズマに戻ったり、また一部は真空ポンプによって容器の外に排出されたりします。ダイバータと呼ばれるシステムは、水素燃料などを引き込み、水素燃料を圧縮化させることにより、容器の壁で跳ね返る粒子を制御して、安定的にプラズマを維持させる役割があります。今回、本研究チームは、プラズマを閉じ込める磁力線のかご(磁場配位)とダイバータ内の圧縮化の関係性について、ある特定の磁場配位において、ダイバータ内部で非常に高い中性粒子圧力が達成されることを発見しました。元々、これまでの研究で、プラズマの中心の位置(磁気軸)が内側にある方が水素燃料をダイバータ内で高圧縮にできることがわかっておりましたが、今回は磁気軸を3.55 mという、通常よく実験される磁気軸条件(3.60 m)よりも5 cmだけ内側にシフトした磁場配位で実験をしたところ、7倍以上の中性粒子圧力を達成しました。
この原因については、ダイバータ内部のプラズマが比較的低温になり、体積再結合と呼ばれる状態になっていることが原因の一つと考えられ、本研究チームは、ダイバータ内部で生じる超高中性粒子圧力現象を、「低温度モード」と命名しました。低温になる理由については炭素不純物が比較的多いことが原因の一つと考えられますが、より詳細な理解をすべく現在解析を進めています。今回の成果は、磁場配位によってダイバータ内部の中性粒子圧力を高めることができることを意味しており、核融合の原型炉の設計にとって重要な知見を与えるものです。
本研究は、マックスプランクプラズマ物理研究所のUwe Wenzel、核融合科学研究所の本島厳らの研究グループによって進められました。
この研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2024年2月9日付けで掲載されました。