LHDのICRHシステムにおいて、幅広いパラメーター範囲で低い反射係数を維持するための、負荷変化に強いT接合回路を最適設計
LHDプラズマを用いて、ICRHアンテナの特性を表すS行列を測定しました。さらに、プラズマとICRHアンテナの相互作用のモデルとICRHアンテナに高周波を伝送する回路のモデルを組み合わせて、実験結果を再現できるシミュレーションプログラム(ハイブリッド回路/3DLHDAP)を開発しました。そのシミュレーションプログラムを使って、ICRHシステムの最適化を行い、広いプラズマパラメータ範囲において、反射率が低い(0.4以下)高効率の加熱ができることを示しました。
ICRHアンテナの結合インピーダンスは、プラズマの変化によって、1000分の1秒以下で急激に変化します。効率良くプラズマを加熱するためには、アンテナの結合インピーダンスを調整することが必要ですが、誘電体液体スタブチューナーに基づくLHDのインピーダンス整合器は、高速負荷変動に対応するには遅すぎるため、反射電力が急激に増加します。T接合回路は、整合点を適切に選択することで、電圧定在波比(VSWR)を最小化することができます。高速な結合変化でもICRH電力を入射し続けるために、本研究では、S行列を測定検証し、ハイブリッド回路/3DLHDAPを用いて、大型ヘリカル装置(LHD)ICRHアンテナにおける負荷変化に強いT接合回路を最適化しました。
LHD研究グループは、華南大学数学物理学部のD. Du、韓国核融合エネルギー研究所のJ. G. Kwak、中国科学院プラズマ物理研究所のQ. X. YangおよびH. Zhou、華南大学電気工学部のS. X. Hu、華南大学核科学技術学部のZ. W. Huang、X. Y. Gong、Z. K. GaoおよびD. Xiangと共同で、LHDのS行列の測定に取り組みました。中国華南大学核科学技術学部のZ. W. Huang、X. Y. Gong、Z. K. Gao、D. Xiangは、水素プラズマを用いたICRHアンテナシステムのS行列を測定し、正しく予測し、ICRHアンテナシステムのための、負荷変化に強いT接合回路の設計に取り組みました。
2022年の第24サイクルLHD実験において、矩形波形によるICRHパワー変調と位相スキャン実験を行うことによって、密度、磁場、結合距離(アンテナとプラズマの距離)とS行列の関係を測定する実験を初めて実施しました。また、プラズマとICRHアンテナの相互作用を計算するモデル(3DLHDAP)と、ICRHアンテナに高周波を伝送する回路のモデルを組み合わせたハイブリッドシミュレーションプログラムを開発しました。これを用いたシミュレーション計算から得られたICRHアンテナシステムの密度、磁場、結合距離に対するS行列の変化は、LHD実験の結果と一致しました。
以上の実験と理論シミュレーションの比較から、ある密度変化範囲において、LHDに設置されている二つのアンテナにおいて、密度によるSパラメータの変化は結合距離による変化と逆になることがわかりました。これにより、特定の条件下で結合距離を制御すると、プラズマ密度変化によるSパラメータの変化を補うことができ、インピーダンス整合を容易に取ることが可能になると期待できます。
得られたSパラメータに基づき、ハイブリッドシミュレーションを用いてICRHアンテナのT接合回路を含んだ回路設計の最適化を行いました。これにより、広範囲のプラズマパラメータにおいてインピーダンス整合器を制御することなく反射係数0.4以下という低い値で保つことができることが明らかになりました。本成果は、核融合プラズマ実験装置におけるICRHアンテナシステムの大電力長パルス運転への貢献が期待されます。
本研究は、華南大学数学物理学部のD. Du、韓国核融合エネルギー研究所のJ. G. Kwak、中国科学院プラズマ物理研究所のQ. X. YangおよびH. Zhou、華南大学電気工学部のS. X. Hu、華南大学核科学技術学部のZ. W. Huang、X. Y. Gong、Z. K. GaoおよびD. Xiangと核融合科学研究所との協力によって進められました。
この研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2023年10月6日付けで掲載されました。
論文情報
用語解説
※ICRH:Ion Cyclotron Resonance Heatingの略。核融合研究においてプラズマを加熱する手法のひとつ。イオンがプラズマ中で螺旋運動する回転周波数(イオンサイクロトロン周波数)と同じ周波数の電磁波をプラズマに入射し、イオンを共鳴的に加熱する。
※S行列:電気・電子回路の入出力特性評価のために使用される行列。散乱行列とも呼ばれる。幾つかの入出力端子対(ポート)の有る回路素子において、例えば電磁波をあるポートから入力し、あるポートに出力した場合、各ポートでの複素電界振幅をSパラメーターもしくは散乱係数として、それらを行列形式に配置したものである。
※高周波回路モデル:アンテナを入出力端子対の有る回路素子と見做して、ICRHアンテナシステムのSパラメータを計算する。
※COMSOL:シミュレーションのためのマルチフィジックス解析プラットフォーム。工学の設計・ デバイス開発・ プロセスの解析が行える。LHDプラズマとICRHアンテナの相互作用を計算するのに使用している。