研究成果

特定の磁場の印加によってプラズマの不安定性を抑制

大型ヘリカル装置(LHD)の実験において、特定の空間構造を持つ磁場を適切な強さで印加することで、プラズマの主要な不安定性を抑制できることが分かりました。さらに、不安定性が抑制されていくと、不安定性によって悪化させられていたプラズマの閉じ込めの状態が改善することも分かりました。この成果は、主要なプラズマの不安定性の抑制を可能にして、より高い圧力のプラズマを安定的に維持する技術の確立に大きく貢献します。

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左側の図のように、大型ヘリカル装置(LHD)では、白色で示されたコイルで磁場を発生させ、プラズマを閉じ込めるドーナツの形の磁場容器を作り出す。LHDには、さらに、共鳴摂動磁場(RMP)コイルと呼ばれる色付きで示された10対のコイルが装置の上下に設置されている。10対のコイルの電流の組み合わせや大きさを変えることにより、磁場容器を様々な形に変形させることが可能になる。この効果を利用して、不安定性に伴うプラズマの変形を修復させるようにRMPコイルから磁場を発生させることにより、不安定性を抑制する。

核融合発電を実現するためには、プラズマ状態にした燃料を、超電導コイルによって作り出されたドーナツ状の磁場の容器に閉じ込める必要があります。そして、核融合発電の出力は燃料プラズマの圧力の2乗に比例して増加するため、可能な限り高い圧力のプラズマを安定的に維持する技術が要求されます。しかし、それを達成するためにはいくつかの課題があり、その一つがプラズマの不安定性です。プラズマは電荷を持つ電子とイオンの集合体であるために、閉じ込められているプラズマ自体が意図しない磁場などを誘発することによって、磁場の容器を変形させたり壊したりして、プラズマの安定的な閉じ込めを難しくします。このような現象を不安定性と呼んでいて、不安定性が発生するとプラズマの閉じ込めの状態が悪くなるため、プラズマの圧力が下がってしまいます。そこで、不安定性を何らかの手法により抑制して、プラズマの圧力低下を防ぐ必要があります。

そこで本研究では、大型ヘリカル装置(LHD)で典型的に観測される一つの主要な不安定性を対象として、図に示されているような共鳴摂動磁場(RMP)コイルを使って特定の空間構造を持つ磁場をプラズマに印加することによって、その不安定性の抑制を試みました。このRMPコイルからの磁場のみを強くしていくと、不安定性のレベルが単調に低下していくことが分かりました。さらに、不安定性が抑制されていくと、不安定性によって低下させられていたプラズマの圧力が少し増加しました。この結果は、RMPコイルからの磁場によって不安定性が抑制されて、プラズマの閉じ込めの状態が改善することを示しています。一方で、このRMPコイルからの磁場を強くしすぎると、磁場の容器を大きく変形させてプラズマの閉じ込めの状態を大幅に悪化させてしまいます。そのような場合、不安定性は抑制されますが、同時にプラズマの圧力も大幅に低下するのでメリットがありません。したがって、実用的には、不安定性が発生しているプラズマに対して、適切な強さでRMPコイルから磁場を印加することが重要です。

上記の手法による不安定性の抑制は、LHDにおいて様々な実験条件でも同様に可能であることを検証しました。この成果は、主要なプラズマの不安定性の抑制を可能にして、核融合発電の実現のために不可欠である、より高い圧力のプラズマを安定的に維持する技術の確立に大きく貢献します。

本研究は、名古屋大学の伊藤秀と核融合科学研究所の渡邊清政、武村勇輝、榊原悟らの研究グループと中部大学の政宗貞男との協力によって進められました。

この研究成果は、国際原子力機関が刊行する核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2023年4月17日付けで掲載されました。

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