研究成果

プラズマに面する壁へのホウ素の堆積過程を観測

大型ヘリカル装置(LHD)のホウ素粉末入射実験において、プラズマ中に入射されたホウ素が輸送され、プラズマに面する壁のどこで・どのように堆積するかを初めて観測しました。この成果によって、核融合発電の効率に影響する、プラズマ中の不純物や周辺部の中性水素量を制御する方法について、理解が深まりました。

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ホウ素(B)は壁において水素(H)や他の不純物イオンと結合しやすい性質を持つ。プラズマに入射したホウ素が輸送され真空容器の壁に着くと、水素や炭素・鉄などの不純物と結合し、それらがプラズマ中に流入するのを抑制する。壁周辺のどこに・どのくらいホウ素が堆積したかの手がかりとして、水素化ホウ素分子(BH)を計測することが重要となる。

高性能なプラズマを生成するためには壁からの中性水素の放出やプラズマへの不純物の流入を抑える必要があり、その手法としてホウ素の堆積膜で壁を覆うものがあります。近年ホウ素粉末をプラズマに重力落下させることにより、壁にホウ素被膜を生成する手法がプリンストンプラズマ物理研究所により開発され、世界中のトカマク・ヘリカル型配位の磁場閉じ込め装置で導入・実験されています。一方で、この手法を行った際にプラズマ放電中にどのようにホウ素が真空容器内を輸送され、堆積するかの実験的な検証がありませんでした。そこで本研究では分子の発光線の計測により、プラズマ放電中の壁周辺のホウ素量を定量評価しました。

主プラズマの温度が数千万度程度であるのに対し、水素化ホウ素分子は数万度で水素とホウ素に分解するため、水素化ホウ素分子の形成領域は壁周辺の低温な領域であると考えられます。また水素化ホウ素は不安定な構造であるため、安定して気相で形成できず、壁からの脱離により形成され、すぐに分解すると考えられます。本研究チームは大型ヘリカル装置でのプラズマ放電実験において、ホウ素粉末を真空容器上部からプラズマに落下させ、同時に壁周辺における水素化ホウ素の発光線スペクトルの空間分布を計測することにより、真空容器内のどこに・どのようにホウ素が堆積するかを求めました。

計測結果から、水素化ホウ素は真空容器内でプラズマに特に接しているダイバータ板周辺に局在化していること、またホウ素粉末の落下量に比例して壁周辺での水素化ホウ素の量が上昇している結果がえられました。このことから、入射したホウ素粉末がプラズマ内で電離・輸送され、ダイバータ板周辺に堆積したことが実験的に示されました。また発光線強度から、入射したホウ素のうち少なくとも10%程度はダイバータ周辺に堆積したと見積もられます。一方水素が水素化ホウ素として放出される量はダイバータ板への粒子入射量の0.01%程度であり、水素化ホウ素は水素の放出には寄与せず、ホウ素堆積量に対する良い指標となっていることがわかりました。

他の発光線スペクトルから、中性水素や炭素不純物の量がホウ素粉末入射中に大きく減少していることが確認でき、ダイバータ周辺に堆積したホウ素被膜の効果があることも確認できました。この成果によって、核融合装置内部のホウ素粉末入射による壁での被膜形成過程、その検証方法、および中性水素や不純物のプラズマへの流入の抑制過程について重要な知見を得ることができました。

本研究は、核融合科学研究所の川手朋子、芦川直子らの研究グループとプリンストンプラズマ物理学研究所のNespoli氏らとの協力によって進められました。

この研究成果は、国際原子力機関が刊行する核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2022年11月3日付けで掲載されました。

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