研究成果

重水素プラズマで閉じ込め性能と装置壁の安全性を両立

大型ヘリカル装置(LHD)の重水素プラズマ実験において、閉じ込めプラズマの性能を維持しつつ、装置壁への過大な熱負荷を軽減することに成功しました。この運転には、重水素プラズマに加えて、周辺部の磁場構造が高温の閉じ込めプラズマと周辺部の低温プラズマを分離するのに重要な役割を果たしていることが示されました。この成果は、将来の核融合発電で用いられる重水素・三重水素混合プラズマの運転に明るい見通しをもたらします。

image
大型ヘリカル装置(LHD)の磁場で閉じ込められたプラズマは、ねじれたドーナツの形をしている。磁場構造を工夫することにより、周辺部に「磁気島」と呼ばれる構造をつくることができる。重水素プラズマでは磁気島内のプラズマのエネルギーが減少して装置壁への熱負荷が軽減すると同時に、周辺部に急峻な温度・密度勾配ができて、閉じ込め領域のエネルギーが増加することがわかった。

核融合発電では、コアの閉じ込めプラズマではできるだけ高温のプラズマを生成・維持して核融合反応を促進させることが必要ですが、一方でプラズマから周辺部に流れてきた熱流が、装置壁を損傷したり溶かしてしまうことが問題となっています。これを解決するために、周辺部のプラズマをできるだけ低温にして壁への熱負荷を下げるという方法がとられます。しかしこの時多くの場合において、閉じ込めプラズマのエネルギーも低下してしまうことが問題となっていました。

大型ヘリカル装置(LHD)では、この問題を解決することを目的として実験を続けていました。その一つの方法として、図に示すような周辺部に「磁気島」と呼ばれる磁場構造を作って、周辺部の低温プラズマと閉じ込め領域の高温プラズマを分離する試みを独自に進めてきました。このような磁場構造が形成されると、周辺の磁気島内のプラズマは低温になって装置壁への熱負荷が下げられることが示されてきました。

一方で、将来の核融合炉では重水素と三重水素を用いたプラズマで発電を行うため、水素の粒子種によってプラズマにどのような変化が起こるかを調べる必要があります。そこで今回の実験では新たに重水素と軽水素プラズマにおいて上述の磁場構造を用いた運転の比較を行いました。その結果、重水素プラズマでは、図に示すように周辺部のプラズマ温度が低下したときに閉じ込めプラズマのエネルギー密度(圧力=温度×密度)は逆に上昇することが観測されました。この現象が起こるときには,プラズマの揺動が減少しており,また磁気島と閉じ込めプラズマの境界でプラズマの温度・密度の分布が急激に上昇していることが確認されました。これは軽水素プラズマでは見られなかった現象であり、重水素プラズマ実験で初めて観測されました。この結果から、重水素プラズマでは軽水素プラズマに比べて、装置壁への熱負荷を減らしつつより高性能の閉じ込めプラズマを実現できることが明らかになりました。

この成果によって、将来の重水素・三重水素プラズマにおいてより高性能のプラズマを維持しつつ、装置壁への熱負荷を減らせる可能性が示されました。

本研究は、核融合科学研究所の小林政弘、關良輔、林裕貴らの研究グループと九州大学の木下稔基との協力によって進められ、この研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2021年12月14日付けで掲載されました。

論文情報