2種類の不純物入射で安定したプラズマ装置壁の熱負荷低減を実現
核融合発電では、1億度を超える高温のプラズマを閉じ込めて核融合反応を起こします。高温の中心プラズマから、装置壁の「ダイバータ」という場所にプラズマが流入するため、ダイバータの局所的な熱負荷を抑える必要があります。そこで、プラズマの周りに不純物を入射し輻射として熱負荷を分散させる「非接触ダイバータ」という運転方法が研究されています。大型ヘリカル装置(LHD)では、この非接触ダイバータの実験を行いました。
本研究チームは、通常1種類の不純物(窒素やネオン、アルゴン、クリプトンなど)を入射するところを、より先進的な運転手法を探すため、ネオンとクリプトンの2種類を入射した実験を行いました。その結果、1種類の不純物入射では0.2秒程度しか維持できなかった非接触ダイバータを、2種類の不純物入射により1秒程度安定して維持することに成功しました。
この2種類の不純物入射では、ネオンを入射することでクリプトンの輻射が促進されていることが分かりました。この現象によって、従来よりも少ない不純物の入射量で効率的に輻射を増やしてダイバータの熱負荷を低減することができ、入射した不純物のプラズマ中心部への混入も抑えられていることが分かりました。また、この現象が起きるには、プラズマ周辺部の電子温度と電子密度に最適な条件があることも分かりました。
核融合炉は定常的に運転する必要があるため、非接触ダイバータ状態を安定して維持し続ける必要があります。また、非接触ダイバータ状態にするために入射した不純物がプラズマ中心部へ混入すると核融合出力が下がってしまうため、不純物の影響はプラズマ周辺部に留める必要もあります。この成果により、非接触ダイバータの運転手法の確立につながる重要な知見を得ることができました。
本研究は、科学研究費助成事業・若手研究(B)「中性子環境下におけるプラズマ輻射イメージング計測手法の開発」(17K14900)、若手研究「非接触ダイバータ研究のための高感度プラズマ輻射イメージング計測の実現」(19K14689)の支援を受け、核融合科学研究所の向井清史らの研究グループと名古屋大学工学研究科の田中宏彦、九州大学大学院総合理工学府の木下稔基、酒井彦那との協力によって進められ、この研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2021年10月25日付けで掲載されました。