研究成果

ヘリカルプラズマで崩壊現象を起こすプラズマ条件を特定

大型ヘリカル装置(LHD)実験では、設計時の理論予測では不安定性が発生し高い圧力のプラズマが閉じ込められないと考えられていた運転条件でも、高いプラズマ圧力が維持されることが示されています。一方、非常に不安定と予測される場合には、高いプラズマ圧力が維持されず崩壊する現象が観測されています。そこで、プラズマ圧力の崩壊現象が観測される放電で、崩壊条件を詳しく調べました。その結果、圧力勾配が原因である不安定性の一種である交換型不安定性により崩壊現象が発生することが判明し、またその条件も明らかになりました。

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(a)交換型不安定性とテアリング不安定性が、それぞれ安定か不安定かを表す示す指標DI(メルシエパラメータ)とΔ'(テアリング不安定パラメータ)を使って、準定常プラズマ維持領域(緑色部)と高いプラズマ圧力が維持されない崩壊領域(橙色部)を表したもの (b)ドーナッツ型のプラズマの一部とポロイダル断面(c)崩壊時のプラズマ圧力分布(d)準定常プラズマ維持状態のプラズマ圧力分布

LHDでは、プラズマを磁場で閉じ込める研究を行っていますが、不安定性(電磁流体力学的不安定性)が発生すると設計時に理論的に予測されたプラズマ条件でも、実験では準定常的に高いプラズマ圧力が維持されること(「準定常プラズマ維持」図(d))が示されています。一方、磁場の強さがプラズマ中心に向かって強くなり、磁場のねじれ度があまり変化しないような場合は、上記よりさらに強く不安定と予測されており、このような実験条件では、高いプラズマ圧力が維持されない崩壊現象が観測されていました(図(c))。しかし、その原因と崩壊条件は未解明でした。その理由は、プラズマ圧力が崩壊する放電では、大きなプラズマ電流が流れ、その電流分布が不安定性に大きな影響を与えるため、その分布を高精度で同定することが容易でなかったからでした。

本研究では、電流分布の同定に、プラズマが発する電磁波が磁場の向きや大きさによって違いがあることを利用しました。プラズマ電流が変わると磁場が変化し、プラズマが発する電磁波も変化します。この性質を使って、電磁波の変化からプラズマ電流を精度よく同定することが可能になりました。この結果と電子温度や密度の計測結果も組み合わせることによって、圧力勾配が原因である不安定性の一種である交換型不安定性と、プラズマ電流が原因である不安定性の一種であるテアリング不安定性について、それぞれ安定か不安定かを予測する指標であるメルシエパラメーター(DI)とテアリングパラメータ(Δ')を精度よく数値計算することができるようになりました。その結果、プラズマ圧力が崩壊する条件を精度よく求めることができるようになりました。図(a)にプラズマ圧力が崩壊した放電(図(c))について、不安定性の指標DIとΔ'を計算した結果を示します。図中●は圧力崩壊につながる不安定性の予兆も観測されていない状態、▲は不安定性に起因するプラズマの揺らぎが発生直後の段階、+はその揺らぎの発生後時間が経った段階を示します。一方、以前の研究成果によると、準定常的に高いプラズマ圧力が維持される条件はDI<0.3, Δ'<0でした。不安定性の指標の適用が有効なのは、揺らぎが発生直後の段階であるので、▲と「準定常プラズマ圧力維持条件」DI<0.3, Δ'<0を比較することにより、高いプラズマ圧力が維持できず崩壊する条件を求めました。その結果、その条件は、揺らぎが発生直後の段階でDI>0.3, Δ'>0であることがわかりました。また、揺らぎが発生直後の段階のより詳細な安定性の数値計算を行いました。磁場の強さがプラズマ中心に向かって強くなり、磁場のねじれ度があまり変化しないような場合は非常に不安定であると予測されています。この場合に観測されるプラズマ圧力の崩壊現象は、揺らぎが発生直後の段階に「理想交換型不安定性」と呼ばれる圧勾配が原因の不安定性の一種が支配的な状況で発生することがわかりました。

核融合炉では、プラズマ中心の圧力が高いほど大きな核融合エネルギーが出力できます。そのため、プラズマ圧力が崩壊する条件としない条件を明確化することは重要な研究課題であり、本研究により、重要な知見を得ることができました。

本研究は、石川工業高等専門学校の岡本征晃、名古屋大学大学院の富田秀昭と核融合科学研究所の渡邊清政らの研究グループによって進められ、この研究成果は、国際原子力機関が刊行する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2021年3月5日付けで掲載されました。

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