閉じ込め磁場の壊れが引き起こす閉じ込めの劣化とプラズマの流れを反転させる力を初めて観測
大型ヘリカル装置(LHD)において、電磁波によってプラズマ中に駆動される電流の向きを変えプラズマ中心部の入れ子状の閉じ込め磁場を壊すことで、プラズマ粒子の漏れ出しとプラズマの流れが反転する現象を発見しました。この発見は、駆動電流の向きがプラズマの閉じ込めに重要であること、閉じ込め磁場の壊れが引き起こす流れのブレーキング効果が壊れによる逆向きの力により生じたことを明らかにしています。
核融合発電炉内では高温・高密度のプラズマを高い閉じ込め状態で維持させることが必要となります。プラズマ粒子は電気を帯びており磁力線に巻き付いて動く性質があることから、コイルによって入れ子状の磁場のかごを作りプラズマを閉じ込めることができます。ところが、温度・密度が高くなりすぎると閉じ込め磁場はプラズマの圧力(温度x密度)を抑えることができず不安定になります。そのため、プラズマの密度を制御するためには粒子を供給・排出する機構を知ることが必要となります。さらに、核融合反応はプラズマの中心部で起こるため、プラズマの中心部の状態を外部から制御するための知見を得ることは重要となります。
本研究では、中心部分の磁場のかごの構造を変えることによって、粒子の排出を制御可能かどうか検討しました。この実現のために、プラズマの加熱方法の一つである電磁波入射(電子サイクロトロン共鳴加熱)を用いることを考えました。電子サイクロトロン共鳴加熱では、磁力線に巻き付く電子の回転周期に対応した周波数の電磁波を入射することにより、電子を選択的に加熱する(運動エネルギーを与える)ことができます。この電磁波の入射方向を変えることでプラズマ中心部に電流を発生させることができます。その電流がポロイダル方向(ドーナツ状プラズマの断面を見たときの周方向:図1参照)に磁場を発生させることから、閉じ込め磁場の磁力線がポロイダル方向に1回転する間に何回トロイダル方向(ドーナツ状プラズマの周方向:図1参照)を回転するかというねじれを変えることができます。このねじれが特定の状態となったとき、中心部分の磁場のかごのみが壊れる状況を作り出せることが磁力線追跡コードにより分かりました。
中心部まで磁場のかごがある状態と、中心部で磁場のかごが壊れた状態を比較しました。この評価のため、プラズマの燃料となる重水素ガスを周期的に入射し、周辺部分で生じた密度の擾乱がどのように内部に侵入していくかを計測しました(図2)。この擾乱がプラズマの中心部に伝わりにくい場合、プラズマの閉じ込めが良く粒子が漏れ出しにくいことを意味します。中心部に壊れた磁場のかごがある場合、その領域でのみ非常に早く擾乱が伝わり、粒子の漏れ出しやすさは磁場のかごがある状態と比べ20倍程度大きくなることを明らかにしました。
さらに今回の実験では、磁場のかごがある状態と壊れた状態とで、プラズマのトロイダル方向の流れを比較しました。その結果、磁場のかごが壊れた領域においてプラズマの流れが逆方向になるということを発見しました。これまでに磁場のかごが壊れることによりトロイダル方向の流れにブレーキがかかるという研究結果はありましたが、この現象が流れようとする力が強いところから弱いところへと伝わることでブレーキになってしまったのか、磁場のかごが壊れたことによって力が発生し結果としてブレーキとなったのか明確ではありませんでした。本研究では、電磁波がプラズマのトロイダル方向に与える力がなく、流れの向きが反転しています。そのため、ブレーキの原因は磁場のかごが壊れた状態のときに力が発生することであると特定しました。なお、磁場のかごが壊れたときに力が発生するプロセスの理解についてはより詳細な調査が必要です。
核融合炉心プラズマは、現存する実験炉と比べ大きくなることが予想され、中心領域のプラズマ特性を直接制御することは困難となってきます。そのため、中心領域のプラズマの状態は周辺部を制御した結果の成り行きとなってしまうため、中心領域の直接制御のノブを得ることが必要です。本研究によって、電磁波によって生じる電流によって磁場のかごの構造を制御し、中心領域のみ閉じ込め特性とプラズマの流れの制御ができるという重要な知見を得ることができました。
本研究は、量子科学技術研究開発機構の大谷芳明主導のもと、核融合科学研究所の田中謙治、鈴木康浩(現・広島大学)らの研究グループ、アイントホーフェン工科大学のMike Sanders及び量子科学技術研究開発機構の坂東隆宏(現・豊橋技術科学大学)の協力によって進められ、 研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2021年2月12日付けで掲載されました。