プラズマ中の波と共鳴する高速イオンの直接観測
大型ヘリカル装置(LHD)では、核融合反応によって生成される高速イオンの閉じ込めを調べるために、その粒子を模擬した、中性粒子ビーム入射装置(NBI)によって生成した高速イオンを用いて実験を行っています。この高速イオンがプラズマ中の波と共鳴すると、波が大きくなって高速イオンをプラズマの外へと吐き出し、プラズマの性能が低下することが問題となっています。本研究では、吐き出された高速イオンを直接計測して、そのエネルギー分布の詳細な時間変化を観測することに成功しました。これにより、波と相互作用する高速イオンの詳細な振る舞いが解析できるようになりました。
本研究では、高速イオンと共鳴するアルヴェン固有モード(AE)と呼ばれる波に注目し、成長して大きくなったAEにより吐き出された高速イオンの詳細計測に取り組みました。吐き出された高速イオンはプラズマの周辺部に存在する電気的に中性な粒子と衝突して荷電交換することにより、高速の中性粒子となり外へとまっすぐ飛び出してきます。この中性粒子を中性粒子計測器(NPA)で計測します。今回、NPAの計測回路を高速化し時間分解能を高めることで、今まで観測できなかった、AE発生中の共鳴イオンのエネルギー分布の詳細な時間変化を観測できるようになりました。これにより、高速イオンのより詳細な議論へと発展させることができました。
まず、AE発生時に観測された高速イオンのエネルギーの減衰時間と、軌道を計算して求めた減衰時間とを比較することにより、これらのイオンがどこで荷電交換されたのかという情報が得られました。また、この情報をもとに、イオンの軌道解析を行い、高速イオンがプラズマ中のどの位置でAEと共鳴したのか、その共鳴粒子のピッチ角(磁力線に巻き付く旋回の速さと磁力線方向の速さの比)がどのように変化したのか等に関する知見が得られました。プラズマ中の高速イオンの直接的な計測は非常に困難であるため、本研究のようにAEにより吐き出された高速イオンを実験で直接計測したことにより得られた結果は非常に有意義であり、今後の高速イオンの閉じ込め研究の進展につながるものと考えています。
本研究は、核融合科学研究所の神尾修治らの研究グループとプリンストン大学のC.Z.チェン博士との協力によって進められ、研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2020年8月25日付けで掲載されました。