研究成果

水素同位体効果の新たな側面の観測に成功

「水素同位体効果」とは、質量の大きい燃料ガスで生成したプラズマのほうが、温度が上がりやすくなるという現象です。この現象は、重水素と三重水素を燃料として用いる将来のプラズマ核融合炉で、より性能の良いプラズマが生成できることを示唆していますが、その原因は未だ謎に包まれています。大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で、水素同位体効果のこれまでとは異なる側面の観測に成功しました。

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重水素プラズマおよび軽水素プラズマにおける、断熱性能と密度の関係を表すグラフ。断熱性能は密度の減少とともに低下するが、ある密度以下になるとV字回復する。この断熱性能の改善は重水素で起こりやすく軽水素で起こりにくい。

「水素同位体効果」とは、質量の大きい燃料ガスで生成したプラズマのほうが、温度が上がりやすくなるという現象です。理論的な予測では、プラズマ粒子により大きな遠心力の働く、重たいプラズマの方が熱を外に逃がしやすいと考えられていました。ところが、実際のプラズマでは、この予測と逆のことが起こります。この現象は、世界各国の実験装置で普遍的に観察されるものであるのにも関わらず、その発生原理は解明されていませんでした。水素同位体効果により、重水素と三重水素を燃料ガス用いる将来のプラズマ核融合炉で性能の良いプラズマが生成されることが期待されます。将来の核融合炉設計に水素同位体効果がもたらす影響を正確に取り込むためにも、一刻も早い現象の背景物理の理解が望まれています。一見して原理のわからない現象に対しては、これまでと異なる側面より研究を進めていくことで、理解が進むことがあります。

研究グループは、プラズマ中にできる断熱層「内部輸送障壁」に着目し、その発生条件に強い水素同位体効果が現れることを世界で初めて発見しました。プラズマの断熱性は、プラズマ密度の増減に伴い変化することが知られています。すなわち、高い密度の場合断熱性が高く、低い密度になると断熱性が低くなります。ところが、ある極端に低い密度領域では、再び断熱性が増加し、温度の高いプラズマが現れます。この断熱性能の改善は、内部輸送障壁と呼ばれる強い断熱層がプラズマ中に自然に発生することで起こります。この内部輸送障壁の形成は、軽水素プラズマに比べ重水素プラズマでより高い密度でも発生することがわかりました。すなわち、重水素プラズマでは軽水素プラズマに比べ、断熱性能の回復が起こりやすいことが示されました。この発見は、これまでに発見されていた量的な水素同位体効果に加え、プラズマの性質が変化する条件にも水素同位体効果が現れることを示すものです。断熱性能の改善は、しばしばプラズマ中に強い流れ場が生成されることと関連づけられます。今回得られた結果をもとに、今後実際に流れ場の測定を行い、燃料ガスの質量によって流れ場の生成されやすさが異なるかどうかを検証していきます。

本研究は、核融合科学研究所の小林達哉らの研究グループと、九州大学応用力学研究所の稲垣滋、中部大学の伊藤公孝らの協力によって進められ、この研究成果は、国際原子力機関が刊行する熱核融合に関する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2020年6月15日付けで掲載されました。

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