研究成果

先進的核融合燃料を使った核融合反応の実証
―中性子を生成しない軽水素ホウ素反応を利用したクリーンな核融合炉への第一歩―

核融合科学研究所と米国・TAE Technologies社※1の研究グループは、大型ヘリカル装置(LHD)において、磁場で閉じ込めたプラズマ中での軽水素とホウ素11※2の核融合反応を世界で初めて実証しました。高エネルギーヘリウムを生成する軽水素とホウ素11の核融合反応※3では放射線である中性子を生成しません。よりクリーンな核融合炉の構想が可能であることから、軽水素とホウ素11は先進的核融合燃料と呼ばれています。今回の成果は、先進的核融合燃料を使った核融合炉の実現に向けた大きな第一歩です。

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ホウ素をふりかけたプラズマに高エネルギー軽水素ビームを入射することで、軽水素イオンとホウ素11反応により3個の高エネルギーヘリウムイオンが生成される。高エネルギーヘリウムイオンの一部は高エネルギーヘリウムイオン計測器に到達する。その信号は高速波形記録装置で記録される。

核融合炉は、持続可能な社会において温室効果ガスを発生しない有望なエネルギー源として期待されています。その燃料は、水素の同位体である重水素と三重水素ですが、近年、さらにクリーンな核融合炉を目指す研究が、世界各国のベンチャー企業を中心に盛んに行われています。そこでは、水素同位体燃料に比べて核融合反応を起こすことは困難ですが、放射線である中性子が発生しない“先進的核融合燃料”が用いられます。核融合科学研究所は2021年9月1日に、米国の最も歴史のある核融合スタートアップ企業のTAE Technologies社と先進的核融合燃料である軽水素とホウ素11を用いた共同研究を開始する契約書を締結しました。核融合炉では、磁場で高温のプラズマを閉じ込め、そのプラズマ中で核融合反応を起こしてエネルギーを発生させます。しかし、これまで、そのようなプラズマ中での、軽水素とホウ素11を使った核融合反応は実証されていませんでした。磁場で閉じ込めた高温プラズマに関する様々な研究を行っている本研究所の大型ヘリカル装置(LHD)で、その反応を実証できれば、先進的核融合燃料を使った核融合炉の実現に向けて、研究を大きく前進させることができます。

小川国大准教授、大舘暁教授らの研究グループは、TAE Technologies社と共同し、LHDにおいて、軽水素とホウ素11の核融合反応の実証に取り組みました。軽水素とホウ素11の核融合反応は、核融合燃料の第一候補である水素同位体燃料と比べて極めて高い温度のプラズマが必要で、実現が難しい反応と考えられていますが、高エネルギーのビームを使うことで実現の可能性があります。その核融合反応を効率よく起こすためには、軽水素を時速1500万kmの速さでホウ素11に衝突させる必要があります。LHDでは、プラズマを加熱するために、時速1500万kmを超える速さの軽水素をプラズマに入射する装置を独自に開発してきました。また、高温プラズマを制御するために、プラズマにホウ素の粉末を振りかける装置を設置しています。これらを組み合わせることで、磁場閉じ込めプラズマ中で軽水素とホウ素11との核融合反応が実現できる可能性がありました。

軽水素とホウ素11の核融合反応では、高エネルギーのヘリウムが生成されます。反応の実証には、そのヘリウムを検出しなければなりません。そのために小川准教授らは、これまでのLHDにおける高度な実験研究により信頼性が確認されている数値シミュレーションに基づいて、発生するヘリウムの数と磁場の影響によって複雑な動きをするヘリウムの軌道を予測しました。そして、高エネルギーのヘリウムが飛来する予定のプラズマの表面近くにTAE Technologies社が製作した検出器を設置しました。ホウ素をふりかけたプラズマに高エネルギー軽水素ビームを入射する実験を行った結果、予測どおり、軽水素とホウ素11の核融合反応によって生成した高エネルギーヘリウムの検出に成功しました。これにより、世界で初めて、磁場で閉じ込めたプラズマ中での、軽水素とホウ素11の核融合反応を実証したのです。

軽水素とホウ素11から高エネルギーヘリウムを生成する核融合反応は、放射線である中性子を生成しないため、将来、よりクリーンな核融合炉を実現できる可能性があります。本研究成果は、よりクリーンな磁場閉じ込め核融合炉実現のための大きな第一歩であるといえます。今後、軽水素とホウ素11との核融合反応をより深く理解するため、軽水素とホウ素11反応のエネルギー依存性、発生分布、及び高エネルギーヘリウムのエネルギー分布等の研究を推進していきます。

本研究は、核融合科学研究所の小川国大、大舘暁らの研究グループと、米国・TAE Technologies社のR. M. マギー博士、田島俊樹博士、郷田博司博士らの研究グループの協力によって進められました。

この研究成果は、世界最高峰の学術論文誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」 に2023年2月21日付けで掲載されました。

論文情報

用語解説

※1 TAE Technologies:米国の核融合関連企業(https://tae.com

※2 自然界では質量数が10と11のホウ素が存在し、ホウ素11は80%程度を占める

※3 軽水素とホウ素11との核融合反応:
 p(軽水素)+ 11B(ホウ素11)→ 3α(高エネルギーヘリウム) (Q=8.68 MeV)

※4 ホウ素粉末落下装置:"ホウ素粉末のふりかけでプラズマの温度が上昇"