大型ヘリカル装置におけるビームイオン
閉じ込め時間の定量的な評価
大型ヘリカル装置(LHD)の重水素実験で発生する中性子発生量の計測結果と統合シミュレーションを用いた解析により、中性粒子ビーム入射装置(NBI)によって生成されるビームイオンが、プラズマ中にどれだけの時間、留まっているのかを明らかにしました。これは重水素を用いた実験を行わなければ、明らかにできないものであり、ヘリカル型の大型装置では初の試みとなります。この成果は、多くの核融合プラズマ研究で必要とされる「加熱分布」から、不確かさを減ずるものであり、LHDにおけるプラズマ物理現象の解明に寄与することが期待されます。
核融合炉では炉内のプラズマを1億度程度で維持する必要があり、このために、プラズマを外部から加熱する必要があります。加熱には「中性粒子ビーム入射装置(NBI)」と呼ばれるものを用い、電気的に中性な重水素原子のビームをプラズマに入射して、プラズマを加熱する手法が一般的です。このビーム粒子が、プラズマ中にどれだけの時間留まっていられるかが、プラズマの加熱効率を決定します。このビーム粒子がプラズマ中に留まる時間を「高エネルギー粒子閉じ込め時間」と呼びます。従来の実験では、この「高エネルギー粒子閉じ込め時間」を計測することは不可能でしたが、本論文では、重水素同士の核融合反応によって生じる中性子を計測し、シミュレーションによる解析を行うことで、LHDにおける「高エネルギー粒子閉じ込め時間」を求めることに成功しました。
また、本論文で得られた「高エネルギー粒子閉じ込め時間」を用いたシミュレーションと、中性子計測の結果を比較することで、プラズマ中の不純物イオンの割合を推定することが可能であることも示しました。通常、不純物イオンの割合を直接測定することは困難であるため、複数の計測データを組み合わせて、矛盾のない不純物イオンの割合を推定する、という手法が用いられていますが、本論文の結果から、中性子計測も不純物イオン割合の推定に貢献できるようになります。
本論文で明らかにした「高エネルギー粒子閉じ込め時間」や「不純物イオン割合」は核融合プラズマ物理の広範囲で必要とされる情報であり、今後のLHDにおけるプラズマ物理研究に大きく貢献できると考えられます。
本研究は、核融合科学研究所の奴賀秀男らの研究グループよって進められ、ケンブリッジ大学出版局が刊行するプラズマ物理に関する学術論文誌「ジャーナル・オブ・プラズマ・フィジックス」に2020年6月17日付けで掲載されました。