研究成果

負イオン源中性粒子ビームを用いた高エネルギーイオン荷電交換計測に成功

大型ヘリカル装置(LHD)重水素プラズマ実験において、負イオン源中性粒子ビームを用いた高エネルギーイオン荷電交換(Fast Ion D-Alpha: FIDA)計測に成功しました。これまでFIDA計測は、正イオン源中性粒子ビームを用いて行われていましたが、本成果によって、ITERやJT-60SAなど核融合炉に近い条件で使用される負イオン源中性粒子ビームを用いてもFIDA計測が可能であることを示しました。

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LHDにおけるFIDA計測の視線図。旧視線である6-O LOSではFIDA計測が困難であったが、中性粒子ビームNB3との角度を小さくした7-O LOSを新たに設けることで、負イオン源中性粒子ビームを用いたFIDA計測に成功した。

将来の核燃焼プラズマは、プラズマ中の重水素と三重水素の核融合反応で発生した高エネルギーアルファ粒子によって加熱されます。そのため、高エネルギーイオンの良好な閉じ込めが必須であるといえます。高エネルギーイオンの閉じ込め研究においては、中性粒子ビームを用いて磁場容器内に閉じ込められている高エネルギーイオンを荷電交換し、荷電交換した高エネルギー粒子からの発光を観測することで閉じ込められている高エネルギーの分布を計測する、高エネルギーイオン荷電交換(FIDA)が世界各国の磁場閉じ込め装置で用いられています。これまで、正イオン源中性粒子ビームを用いたFIDA計測が行われてきましたが、今後の核融合炉に近い実験装置では、負イオン源中性粒子ビームを用いた加熱・制御が主となり、そのような装置でFIDA計測が可能であるかについては、実験的に示されていませんでした。

本研究チームは、LHDに装備されている負イオン源中性粒子ビームに着目し、負イオン源中性粒子ビームを用いたFIDA計測に取り組みました。これまでの負イオン源中性粒子ビームとFIDA計測視線の角度が比較的大きい条件においては、信号に対するノイズレベルが高くFIDA計測が困難でしたが、この角度をできるだけ小さくした視線を新たに設けることで、高エネルギーイオンの荷電交換に起因すると思われるドップラーシフトした発光の計測に成功しました。計測された発光のスペクトルは、アメリカを中心として開発された数値シミュレーションコードFIDASIMで予測された発光スペクトルと定性的な一致を得、この発光が高エネルギーイオン荷電交換に起因するものであることを示しました。本結果によって、負イオン源中性粒子ビームを用いた高エネルギーイオンの観測が可能であることを実験的に示しました。

本研究は、核融合科学研究所の長壁正樹らの研究グループと、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のW.H.J. Hayashi博士課程学生、W.W. Heidbrink教授、米国・ジェネラルアトミクスのC.M. Muscatello博士、D.J. Lin博士との協力によって進められました。 

この研究成果は、2023年に開催された第29回IAEA核融合エネルギー会議においてポスター発表に選ばれた他、計測に関する国際的な学術論文誌「ジャーナル・オブ・インスツルメンテーション」に2024年12月6日付けで掲載されました。

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