研究成果

LHDにおけるミリ波・サブミリ波散乱によるイオン計測

大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験において、プラズマ中のイオンと高速イオンの状態を調べるために、電磁波の散乱現象を利用した協同トムソン散乱(CTS)計測の開発を進めています。従来の77 GHz帯、154 GHz帯に加え、世界初のサブミリ波である300 GHz帯の散乱計測の開発状況(福井大学との共同研究)を報告しました。周波数を高くすることで従来計測が困難であった高密度領域を調べることができます。また、世界に先駆け深層学習を用いて1次元の計測した散乱信号から2次元の非等方イオン速度分布を求める速度空間上のトモグラフィ手法を提案しました。この成果は、核融合で発生するα粒子の状態を調べる手法の進展に貢献しています。

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左図:高温プラズマ中のミリ波によるイオン計測の原理。ミリ波ビームを入射し、その散乱光を計測することで、プラズマ中のイオンの温度や速度分布を測る。
右図:深層学習による速度空間トモグラフィ再構成結果(再構成結果)。計測信号は計測視線に投影された量として観測される(2視線計測)。2視線計測から得た再構成結果は元のイオンの速度分布を良く再現している。

核融合プラズマは、プラズマ中の重水素と三重水素の核融合反応で発生したα粒子によりプラズマの燃焼を維持し、エネルギーを発生させます。このプラズマ内で発生したα粒子の分布やエネルギー状態を知る手法の一つが、ミリ波サブミリ波を用いた協同トムソン散乱(CTS)計測です。

本研究チームは、ミリ波サブミリ波帯電磁波ビームのプラズマによる散乱現象から、イオン温度や速度分布を評価する手法の研究を進めてきました。従来の77 GHzや154 GHz帯に加え、より高密度での計測を可能とする300 GHz帯のCTS計測の準備を進め、その開発状況を報告しました。福井大学遠赤センターで開発された300 GHz帯のジャイロトロンと受信機を設置し、300 GHz帯の電子からの熱輻射の計測に成功しました。今後,散乱信号の検出実験を実施する予定です。

この方法を用いると、計測される散乱信号は、空間的には入射ビームと受信ビームの交差位置の情報になります。しかし、速度空間上で視線方向に投影された1次元量として検出されてしまいます。従って、トモグラフィ手法を用いて、磁場に平行方向と垂直方向の速度空間にイオンの分布を再構成する必要がありました。そこで我々は、新たに深層学習による再構成手法を提案しました。その結果、モデル分布から計測信号、計測信号から元の分布への変換規則を学習させ、その学習規則を用いて1次元の計測信号から2次元のモデル分布を再構成可能なことに世界で初めて実証しました。

この成果により、プラズマ中で発生した高エネルギーイオンやα粒子の速度状態を計測することに一歩近づきました。また、本手法を用いれば、従来の逆変換が困難な条件であったとしても、順変換が可能であれば逆変換が可能になります。そのため、本手法は様々な分野での計測に応用されることが期待されます。

本研究は、核融合科学研究所の西浦正樹らの研究グループと福井大学遠赤外研究センターの斉藤輝雄教授との協力によって進められ、研究成果は計測に関する国際的な学術論文誌「ジャーナル・オブ・インスツルメンテーション」に2020年1月2日付けで掲載されました。

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