プラズマ中の不純物の固体粒子の振る舞いを数値シミュレーションで再現することに成功
大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ中に向けて不純物を含んだ固体粒子(ダスト)を落下させると、ダストが溶けて蒸発する様子を観測することができます。このダストの蒸発はプラズマにとっては不純物源となるため、その場所を精確に予測することは非常に重要な研究課題です。ダスト輸送シミュレーションと周辺プラズマシミュレーションの両方を用いてダストの蒸発位置を計算したところ、観測結果を再現することに成功しました。
大型ヘリカル装置(LHD)では不純物粒子落下装置(IPD)を用いて、不純物の小さな固体粒(ダスト)をプラズマ中に落下させる実験を行っています。例えば、ホウ素のダストを落下させて、真空容器壁・ダイバータ板等の表面をホウ素の被膜で覆うと、プラズマのエネルギーの閉じ込め性能が良くなることが分かりました。プラズマ中にダストが入るとプラズマの熱によってダストは溶けた後、光を発して蒸発して最後に消滅します。蒸発した不純物の原子はプラズマにとっては不純物源となることから、ダストが蒸発して消滅する位置を観測するとともに、それを精確に予測することは非常に重要な研究課題です。
LHDではプラズマ中でダストが蒸発する位置を高速カメラによって常に観測しています。LHDの上部にあるIPDの近くに石英の観測窓を取り付けて、その場所に高速カメラを設置しました。そして、このカメラによってホウ素のダストが蒸発する様子を観測しました(図1)。左側の画像はプラズマの密度が低い場合、中央の図は中密度の場合、右側の図は高密度の場合に観測されたプラズマ中のダストの様子です。プラズマの密度が高くなるとともに、ダストが蒸発する場所が画面上で右側方向(トーラス外側)に移動しています。不純物が発生する位置がプラズマの状態によって変化してしまうと、ダストを落下させる実験時におけるプラズマの制御が難しくなります。このことから、ダストが蒸発する位置が移動する原因を明らかにするとともに、その場所を予測することが重要です。
本研究では、ダスト輸送数値シミュレーションコード(DUSTT)と周辺プラズマシミュレーションコード(EMC3-EIRENE)の両方を用いることによって、ホウ素のダストが蒸発して消滅する位置を予測することを試みました。図2は、解析に用いたLHDの真空容器を模した3次元モデルです。図中では、ちょうどダストが落下する位置の典型的な周辺プラズマ密度分布の断面図が示されています。ダイバータレッグの直上(図中の黄丸点)からホウ素のダストを落下させました。初めに、各実験条件においてEMC3-EIRENEによってLHDプラズマの各パラメータ(プラズマの密度、温度など)の3次元分布を計算しました。次に、DUSTTによってプラズマ中に落下するホウ素のダストの軌道を計算しました。その後、ダストがプラズマの熱によって蒸発して消滅する位置を求めました。
図3(a)は、ホウ素のダストの軌道と消滅する位置の計算結果を示した鳥瞰図(図2中の灰色破線領域に相当)で、3つの異なったプラズマ密度(最外殻磁気面(LCFS)で 1, 2, 4×1019 m-3)の場合の結果を示しています。図3(b)は、これらの計算結果をLHDの上部方向から見た場合の図です。プラズマの密度が高くなると、ダストが消滅する位置がトーラス外側方向に移動しています。この計算結果は図1と定性的に良く一致しています。このシミュレーションによって、プラズマ密度が高くなるに従い、ダストが消滅する場所が移動する理由が明らかになりました。プラズマに向けて落下したダストは、LHDの周辺プラズマに到達する前にプラズマの上部にあるダイバータレッグ部を横切ります。このダイバータレッグ部ではプラズマがトーラス外側に向けて大きな速度で流れているために、この影響によってダストは軌道を外側に曲げられてしまいます。プラズマの密度が高くなるほどこの影響は大きくなります。よって、プラズマの密度が高くなるほど、ダストが落下する軌道はより外側に曲げられてしまい、プラズマ中でダストが消滅する位置がトーラス外側に移動することが分かりました。
以上のように、LHDのプラズマ中のダストの振る舞いをシミュレーションによって再現することに成功しました。この解析手法を用いることによって、実験前にあらかじめプラズマ中の不純物源の位置を精確に予測できることから、IPDをより有効に使いこなせるようになり、プラズマの閉じ込め性能の更なる向上に貢献できると期待しています。
この研究は核融合科学研究所の庄司主と河村学思、カリフォルニア大学のロマン・スミルノフ、金沢大学の田中康規との協力によって進められました。
この研究成果は、日本シミュレーション学会が刊行するシミュレーション技術に関する学術論文誌「ジャーナル・オブ・アドバンスド・シミュレーション・イン・サイエンス・アンド・エンジニアリング」に2024年2月6日付けで掲載されました。