研究成果

新構造・核融合炉用受熱機器が大型ヘリカル装置(LHD)での耐久試験で高い除熱性能と信頼性を実証

核融合科学研究所で発明し特許を取得した接合技術を用いて、タングステン(W)の受熱面と高強度銅合金(GlidCop®)製冷却板の接合構造から成る新しいタイプの核融合炉用受熱機器「新構造ダイバータ受熱機器」を開発した。今回の研究では、この「新構造ダイバータ受熱機器」を大型ヘリカル装置(LHD)の高温プラズマに1180回(合計で約8000秒)繰り返し当てる耐久試験を実施した。その結果、Wの表面にごく小さなクラックと損耗が見られたが、WとGlidCop®の接合構造(W/GlidCop®)自体に問題は無く、最後まで高い除熱性能が維持されていることを確認できた。この実験によって、新構造ダイバータ受熱機器は核融合炉における除熱機器として高い除熱性能と信頼性を有することが実証された。


image
タングステン(W)の受熱面と高強度銅合金(GlidCop®)製冷却板の接着(接合)構造で構成される「新構造ダイバータ受熱機器」を、大型ヘリカル装置(LHD)の高温プラズマに1180回(合計で約8000秒)繰り返し当てる耐久試験を実施しました。新構造ダイバータ受熱機器を、図に示すようにLHDの真空容器に下側から上に向かって挿入しました。耐久試験中のWやGlidCop®の温度は温度計で計測しました。計測される温度上昇と冷却の傾向は実験の初めから終わりまで変化がありませんでした。これにより、新構造ダイバータ受熱機器は1180回という高い繰り返し耐久試験に合格しました。

核融合科学研究所では、ダイバータ受熱機器と呼ばれる、核融合の炉心プラズマからの強い熱負荷に耐えられる機器の高性能化設計を進めてきました。ダイバータ受熱機器は、タングステン(W)表面で受け止めた熱を、すぐ裏側に接着(接合)された銅合金の冷却板で除熱する構成が基本となっています。従来、この冷却水の流路は銅合金に穴を空けた円筒状のものが検討されてきましたが、最近、除熱性能を高めるための新たな構造が注目されています。新構造は、冷却水流路の断面が長方形で、流路の上壁には突起構造(フィン)があります。図の写真にある新構造ダイバータ受熱機器は、W平板に長方形断面の冷却流路と突起構造を有する銅合金(GlidCop®)製冷却板で構成されています。本研究チームでは、まず、この新構造の製作に必要な接合技術「先進多段階ろう付接合法(AMSB)」を開発し、特許を取得しました。次に、本特許技術によって製造されたW/GlidCop®製新構造ダイバータ受熱機器に対して電子ビームによる熱負荷試験を実施し、この受熱機器が将来の核融合炉で予想される熱(30 MW/m2)を十分に除熱可能であることを確認しました。今回の研究では、次の展開として、この新構造ダイバータ受熱機器を大型の高温プラズマ閉じ込め装置であるLHDのプラズマに当てて耐久試験を実施することが目的でした。

耐久試験では、銅合金(GlidCop®)の冷却流路に冷却水を流しながら遠隔操作でLHD真空容器内の図に示す位置まで受熱機器を上昇させます。この位置で高温プラズマに1180回(合計で約8000秒)繰り返し当てる耐久試験を実施しました。耐久試験中のWやGlidCop®の温度は温度計で計測されました。計測される温度データを見ると温度上昇から冷却に至るまでの冷却性能を知ることができます。その結果、本試験体が本来有する高い冷却性能は、実験の初めから終わりまで変化することなく実験期間を通して維持されていることがわかりました。

耐久性能を確認した後で、今度は、実験終了後に本試験体をLHDから取り出し、電子顕微鏡を使ってW表面の状態変化の観察を行いました。観察の結果から、W表面には0.05 mmほどの小さなクラック、数mmスケールの放電痕、プラズマ粒子による損耗など、非常に小さな変化が確認されました。この中で特に興味深い現象は、プラズマ粒子によるW表面の損耗現象です。核融合炉のダイバータ受熱機器では、どのような材料を使用したとしても必ず表面損耗が発生することはわかっていますが、今回の新構造ダイバータ受熱機器のW表面で確認された損耗量は、これまで予測していたW受熱面の損耗量と比較して大きなものでした。この損耗量が直接除熱性能に影響を与えるかどうかは更なる長期間の耐久試験が必要ですが、今回得られた表面観察結果は、ダイバータ受熱機器表面の損耗過程に関して新しい知見を与えるものとなりました。

本研究は、核融合科学研究所の時谷政行らの研究グループと岡山理科大学の平岡裕氏、名古屋大学の辻義之氏らの研究グループとの協力によって進められました。

この研究成果は、米国原子力学会が刊行する学術論文誌「フュージョン・サイエンス・アンド・テクノロジー」に2023年4月10日付けで掲載されました。

論文情報