当たるプラズマが同じでも材料によって吸収される熱が異なることを実証
核融合装置の壁材料によって、プラズマからの熱の吸収量がどれほど変わるかを実験で確かめました。大型ヘリカル装置(LHD)で、タングステンと炭素を並べて同時にプラズマにさらした結果、エネルギーの反射が大きいことが知られているタングステンでは、実際に吸収される熱が炭素よりも少なくなっていることを観測しました。これは将来の炉設計に役立つ重要な知見です。

核融合炉では、炉内で生じた高温プラズマの熱を排出する「ダイバータ」が重要な役割を担います。その壁材料として、従来は炭素繊維強化複合材(CFC)が使われてきましたが、次世代炉では高融点で燃料を吸着しにくいタングステンが有力候補とされています。ただし、タングステンはイオンや原子を反射する際に高いエネルギーで反射させる特徴があり、ダイバータ付近のガスの分布や排気特性などに影響を与える可能性があります。この「エネルギー反射係数」の違いは材料に吸収される熱の違いとしても現れます。しかし、炭素とタングステンに吸収される熱が異なるという事実を実際のダイバータプラズマで観測した例はなく、それを確かめることが本研究の目的です。
大型ヘリカル装置(LHD)に、冷却機構付きのタングステンと炭素を並べた特製のダイバータモジュールを設置しました。LHDのプラズマに同時にさらし、表面温度を赤外線カメラで、内部温度を熱電対で測定しました。タングステン表面の輻射率は別途校正装置で測定し、赤外線計測の補正に利用しました。観測された温度分布は、有限要素解析を用いて熱流束に変換しました。また、経験式によるエネルギー反射係数を計算し、シースと呼ばれる理論から熱流束を求め、実測と比較しました。
対象とした水素放電において、赤外線カメラと熱電対による計測から、炭素表面では約10 MW/m2の熱流束が観測されましたが、タングステンではその約75 %でした。これはタングステンのエネルギー反射係数が炭素より高く、水素イオンがより高いエネルギーを持って反射されるため、材料に吸収される熱が少ないことを示しています。タングステンと炭素において吸収される熱流束の比は、シース理論から解析された熱流束比とも一致し、異なる材料のエネルギー反射特性が熱流束の差の主因であることが定量的に確認されました。また本研究では、輻射率が小さいタングステンにおける赤外線計測の誤差を補うため、熱電対と有限要素解析の併用が有効であることも示されました。
本研究は、同一のダイバータプラズマ条件下でタングステンと炭素で吸収される熱の差を直接観測した初の成果であり、材料依存のエネルギー反射係数が実際の熱流に与える影響を明確に示しました。核融合炉における熱の処理は設計時の重要な検討事項であり、ダイバータ冷却設計や材料選定において、本研究成果は熱除去能力を見積もるための重要な指針となります。また、将来の核融合炉に向けて、タングステン等の低輻射率材料における赤外線計測の精度向上が求められることも示唆され、診断技術の発展にも貢献する結果となりました。
本研究は東京大学の林祐貴、核融合科学研究所の浜地志憲、時谷政行らの研究グループの協力により進められました。
この研究成果は、核融合工学に関する国際的な学術論文誌「フュージョン・エンジニアリング・アンド・デザイン」に2025年11月6日付けで掲載されました。
