プラズマからのエネルギー出力をコントロール
大型ヘリカル装置の重水素プラズマ実験において、回帰解析法という、“一つのパラメータが他のパラメータにどのように依存しているか” を表す手法を用いて、核融合反応によって発生した中性子の数と外部から制御可能な計測パラメータとの依存関係を調べました。その結果、中性子発生数は、プラズマ密度と加熱パワーを用いた簡潔な数式で書けることが分かりました。この成果によって、将来の核融合エネルギー出力を制御するための一手法を手に入れることができました。
核融合発電では、プラズマ中の重水素と三重水素の核融合反応で発生したエネルギーを取り出します。プラズマ密度や加熱の条件等を変えることで、核融合エネルギー出力が制御されます。将来の核融合発電においては、できるだけ少ない計測・制御パラメータを用いて、このエネルギーを制御することが求められると考えられます。この制御を行うためには、核融合エネルギー出力が、計測・制御パラメータにどのように依存しているのかを表す手段を手に入れて置く必要があります。
本研究チームは、核融合発電での核融合エネルギー出力を制御するための研究の一環として、大型ヘリカル装置(LHD)の重水素実験において、核融合反応の数(中性子発生数)が他のプラズマパラメータにどのように関係しているのかを調べました。LHDでは、プラズマ内で起きている物理現象を詳細に調べるため多数の計測器が稼働しておりますが、膨大なデータの関係全てを調べるのは長い時間が必要であり、これまで容易ではありませんでした。
本研究では、統計分野の回帰解析法という、“一つのパラメータが、他のパラメータにどのように依存しているか”を調べる手法を用いました。これは、新型コロナウイルス感染症の累積感染割合と人口密度の関係の理解等にも広く使用されている手法です。まずは、LHDの中性子発生数と用意した全ての制御・計測パラメータとの依存性を調べます。その後、中性子発生数に対して依存性の弱いパラメータについては順次削除していき、強く依存するパラメータのみを残すことを続けました。結果、2019年度までの実験サイクルで得たLHDプラズマの中性子発生数は、プラズマ密度とプラズマを加熱する中性粒子ビームのパワーをパラメータとした簡潔な数式で書けることが分かりました。
この結果により、LHDでは、重水素ガスボンベの開け方(プラズマ密度)と中性粒子ビームの加熱パワーのみを制御することで、中性子発生数を制御できる可能性を示しました。この成果によって、将来の核融合エネルギー出力の制御法の開発につながる重要な知見を得ることができました。また、本研究で得られた数式をガイドラインとして実験を行ったところ、2020年度の実験サイクルでは、放電当たりに発生した中性子発生数の記録を約20%更新することができました。プラズマの制御だけでなく、性能向上という側面でも強力な手段であることが実証できたので、海外の研究機関にも宣伝しています。
本研究は、核融合科学研究所の小川国大、磯部光孝、横山雅之の研究グループによって進められ、核融合工学に関する国際的な学術論文誌「フュージョン・エンジニアリング・アンド・デザイン」に2021年2月26日付けで掲載されました。