研究成果

プラズマにさらされる壁への熱負荷を計測するシステムを構築

核融合炉のダイバータ板と呼ばれる場所には局所的にプラズマが流入し、大きな熱負荷が予想されるため、その熱負荷を高精度に計測する必要があります。本研究では、大型ヘリカル装置(LHD)において、2次元かつ高い空間分解能をもつサーモグラフィと熱伝導解析を組み合わせて、ダイバータ板の熱負荷を高精度に計測するシステムを構築しました。これより、LHDのダイバータ板が受ける熱負荷を詳細に解析することが可能になりました。

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左の図は実験の概要を表す。高熱流のプラズマはダイバータ板に流入する。上昇したダイバータ板の温度は赤外線(IR)カメラで観測する。IRカメラが観測している温度はダイバータ板表面から裏面への熱伝導の結果であるため、観測した温度分布を用いて熱伝導を解析することで、ダイバータ板が受ける熱負荷を求めることができる。右の図は再構築された熱負荷の分布。

核融合炉ではプラズマを磁場のカゴで閉じ込めますが、プラズマは徐々に拡散してカゴの外へ少しずつ出てきます。また、核融合反応で生成したヘリウムも外に取り出す必要があります。そこで、磁場の形を工夫して、外に出てきたプラズマをダイバータと呼ばれる機器に導いて、そこに配置されている特別な板(ダイバータ板)でプラズマの粒子を受け止めます。粒子のエネルギーは熱に変わり、ダイバータ板の表面は高い熱負荷を受けることになります。その熱負荷を正確に予測し、熱負荷を制御する方法を確立することが、核融合炉実現に向けた重要な課題の一つとなっています。

大型ヘリカル装置(LHD)には、世界最大級のヘリカルダイバータが設置されています。これまでLHDにおけるダイバータ板の熱負荷の評価には、プラズマの温度や密度を計測して熱負荷を見積もる、静電プローブという方法が用いられてきました。静電プローブは簡易的な計測手段である一方で、空間分解能が悪く計測範囲が限られるという課題があります。さらに、ダイバータ板が受ける熱負荷は、流れ込むプラズマによる熱負荷に加えて、離れたプラズマからの放射や、静電プローブでは計測できない中性粒子の衝突による寄与も含まれます。

本研究では、LHDのダイバータ板の熱負荷を高精度で計測するシステムを新たに構築しました。このシステムは、赤外線サーモグラフィによる温度計測と熱伝導解析を組み合わせたものです。サーモグラフィで、LHDのダイバータ板の表面温度を1 mmの空間分解能で2次元的に計測します。この表面温度は、ダイバータ板表面が受ける熱負荷と、表面から裏面への熱伝導の結果であるため、有限要素法を用いた3次元非定常熱伝導解析によって熱伝導の効果を評価します。これにより、ダイバータ板の表面温度から熱負荷の2次元分布が得られます。今回構築したシステムはダイバータ板の表面温度を用いるため、従来の方法では不可能だった、ダイバータ板が受ける実効的な熱負荷を評価することが可能です。

本研究で立ち上げたシステムによりダイバータ板への熱負荷の詳細な解析が可能になりました。例えば、炉心プラズマへ入射する加熱パワーを変えたり、燃料であるガスパフの量を変えた時に、ダイバータ板への熱負荷がどのように変わるのかを系統的に調べることができます。これにより、将来の核融合炉のダイバータ板の熱負荷の予測につながる知見が得られます。

本研究ではLHDのダイバータ板1枚に対する熱負荷について調べました。本来であれば、LHDの全て(約1700枚)のダイバータ板の熱負荷を評価することが理想的ですが、その場合は非常に多くの赤外線カメラと観測ポートが必要になります。そこで、次のステップとして、数値シミュレーションで全ダイバータ板への熱負荷を予測することを計画しています。本研究で用いた熱負荷計測システムにより、実験とシミュレーションの密な比較が可能になったため、シミュレーションの高精度化を図ります。そして、LHDの全ダイバータ板に流入する熱負荷を予測して、プラズマの加熱からダイバータ板に至るLHD全体のエネルギーの流れを研究する予定です。

本研究は、核融合科学研究所の林祐貴らの研究グループによって進められ、この研究成果は、核融合に関する国際的な学術論文誌「フュージョン・エンジニアリング・アンド・デザイン」に2021年1月22日付けで掲載されました。

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