研究成果

人工ダイヤモンドを使用した熱中性子計測

大型ヘリカル装置(LHD)の重水素プラズマ実験において、人工ダイヤモンドを用いた熱中性子計測手法を確立しました。出力される電気信号の形状による信号振り分け手法を導入することで、従来の方法の1.5倍程度の効率で熱中性子計測が可能になりました。この成果は、核融合発電で発生する中性子の管理や燃料増殖率の高精度評価に繋がるもので、核融合炉開発研究を大きく進展させます。

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人工ダイヤモンド正面に薄いリチウムの箔を設置することで、熱中性子との核反応によって高エネルギー荷電粒子が発生する。この粒子が人工ダイヤモンドに入射することで電気信号が得られる。また、入射した粒子のエネルギーが人工ダイヤモンドへ伝搬する過程の違いにより、信号の形状が異なる。本研究で用いた弁別手法ではこの形状に着目して高エネルギー荷電粒子に起因する信号のみを抽出して測定することができる。

核融合発電では、プラズマ中の重水素と三重水素の核融合反応で発生した中性子を、プラズマを包み込むように配置されるブランケットと呼ばれる機器で受け止め、発電を行うと同時に三重水素の増殖を行います。特に三重水素の増殖反応は中性子のエネルギーが低いほど起こりやすいため、熱平衡状態にある中性子(熱中性子)の計測は、炉の燃料の定常生産をモニタリングするため大変重要です。これまでに多くの熱中性子検出器が開発されていますが、核融合炉のブランケット領域は高温、高放射線環境であるため、従来の検出器では短期間で故障してしまうと予想されています。そこで本研究では、耐放射線性や耐熱性の非常に高い人工ダイヤモンドを中性子検出器として応用した熱中性子計測手法を開発しました。

本研究チームが開発した手法は、人工ダイヤモンド正面にリチウム箔を設置し、主に熱中性子とリチウムの核反応により発生する高エネルギー荷電粒子を検出します。この荷電粒子を人工ダイヤモンドに入射させ、その量を電気信号として取り出すのです。ここで、人工ダイヤモンドはガンマ線などの放射線にも有感であるため、その影響を取り除く必要があります。そのため、高エネルギー荷電粒子とガンマ線入射により発生する電気信号の形状からその弁別を行うプログラムを新規に開発し、その性能評価を実施しました。

熱中性子とリチウムが核反応を起こすと、2種類の高エネルギー荷電粒子が発生します。これらの各荷電粒子の入射により人工ダイヤモンド中に流れた電流値の頻度分布に対し、上記のプログラムを適用しました。その結果、放射線の影響が除かれ、2種類の高エネルギー荷電粒子に相当する2つのピークが得られました。これにより、本手法によって強い放射線環境下においても熱中性子のみを弁別して測定できることが実証されました。また、従来の計測では、低いエネルギー領域の高エネルギー荷電粒子(ヘリウムに相当)の計測は不可能であったため、本手法の開発により実効的な熱中性子の検出効率を約1.5倍上昇させることに成功しました。さらに、本計測手法を重水素プラズマ実験で発生する中性子の計測に適用し、広い中性子束領域において十分な測定性能があることも示すことができました。

核融合炉のブランケット領域は高温、高放射線環境であるため、中性子検出器はこのような過酷環境に設置されます。ダイヤモンドは元来耐熱性が高く、また、本研究で開発した計測手法によりガンマ線などの放射線と熱中性子に起因する高エネルギー荷電粒子の弁別測定が可能なことが示されました。従って、本研究で開発した計測手法により核融合炉における中性子管理の高精度化に見通しを得ることができたといえます。

本研究は、核融合科学研究所の小林真助教らの研究グループとイタリア新技術・エネルギー・持続的経済開発機関のM. Angelone博士、名古屋大学の吉橋幸子准教授、瓜谷章教授、基礎生物学研究所の坪内知美准教授、徳島大学の阪間稔教授との協力によって進められ、研究成果は、国際的な核融合工学論文誌「フュージョン・エンジニアリング・アンド・デザイン」に2020年10月19日付けで掲載されました。

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